88歳、わし 小説家になる。

碧海 山葵

88歳 わし、小説家になる。

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昔孫が見せてくれた

動画配信サービスの画面が

忘れられない。


そんなわし、今日で

88歳になった。

米寿。

おめでとう、わし。


”八十八”を縦に並べると

“米”にみえることから

88歳は米寿と言うらしい。


ふーん。


それよりも…。

88歳、

おめでとうということで

ねだったのが

”パソコン”だ。


でもいざおいてみると…。

こいつはあんまり和室に似合わない。

パソコンもそれとなく肩身が狭そうだ。


いやいや、

そんなことはなんでもいい。

とりあえず、わしはみたいものがあるんじゃ。



”8”を”パチ”と読み替えて拍手を表現する。

そんなことを思いつく世界の人々。

ネットのなかの人。


わしも仲間入りしたい…。


手当たり次第にアプリを入れ

アカウントをつくっていく。


アカウントの作り方は

孫が教えてくれた。

だいたいメールアドレスと電話番号があれば大丈夫だ。


もうこの歳だし個人情報もなにもない。

電話をかけてきて

詐欺をするならどんとこい。

こちらも検索かけて対応してやる。


でもなんだか

お昼ご飯をたべたから眠くなってきた。


「ねりおしまつぽやしみ!!!」


とつぶやいて、ねる。


昔流行ったネオおたく語とやらを

使えた満足感は大きい。


_____1時間後。



昼寝は縁側に限る。

そう思いながら肩をならしながら

起き上がる。


どれどれ、

わしのつぶやきはどうなっとるかな。


寝る前にした、もう一つのつぶやきを

確認する。


「88歳でつぶやきしとるやつ、

 集まれ」

 #88歳 #米寿


おおおお!

孫が教えてくれた”リツイート””いいね”が

たくさんされとるぞ!!


しかも”リプライ”もきておる!


「あ、とめさんじゃ!」

昔同級生だったとめさんから

「ぼやきがおおくて親戚に嫌われとったけど

つぶやきでつぶやくようになったから

最近はそうでもないんじゃ」

と来ている。


つぶやきナイスじゃないか。


「わしは1人で寂しい気持ちを毎日つぶやく

ことにします。」

とめさんにリプライしてみる。



2年前、ずっと連れ添ったばあさんが

死んでしまった。

ばあさんはいるだけでなんとなく

おもしろくて毎日わらいっぱなしだった。


ばあさんは

小説家になるんだ

と言って、

おばあさん小説家デビューを夢に

毎日原稿用紙いっぱいに

なにかを書き連ねていた。

けれどそれをどこかに送っているところは

みたことがなかった。



すると、3日前

ばあさんの引き出しを

久しぶりにのぞいてみたら

出てくる出てくる。

原稿用紙の束が!!


わし、泣いた。

全わしが号泣。


ばあさんは

わしとの毎日の暮らしとか

その日のおもしろかったこととか

わしに対してイライラしていたこと

ばあさん自身の体の不調を

ずっと記録していた。


小説のような日記

日記のような小説だった。


だからわし、

ネットに投稿することにした。

ばあさんとわしの話を。



毎日毎日時間だけはヤマほどある。


朝起きて

タイピングの練習。

ごはん。

ジョギング。

午前中の投稿活動。

そして投稿の宣伝をつぶやく。


午後はとりあえずごはん。

昼寝。

(年寄りだから昼はねむいんじゃ)

そして午後の投稿活動と

宣伝活動。


そんなこんなで日が沈む。


ということでまたご飯。

そのあと少し夜の投稿活動と

宣伝活動。


ばあさんに今日の進捗具合を報告して

就寝。


そんな日々はあっという間に過ぎた。


気がついたら

つぶやきで宣伝するまでもなく

みんなに読まれている。


すごい、すごい。

今こそ自分に888888888888だ。



編集者さんも行動がはやい。

孫が教えてくれた

”バズった”という状態になった

わしをすぐにみつけてくれた。

早速書籍化してくれると言う。


わしも老い先がみじかいから

ありがたい話じゃった。



本当にありがたい話じゃった。


ばあさんがかいて

わしが投稿したものが

本になった。

こうしてわしは88歳でデビューした

小説家になった。



_____でも、いまわしは

これを病室で書いている。


じいさんがかいた小説を

孫はどうやらさらにネットで

自慢してくれているらしい。


孫はいわゆる

“子供部屋おじさん”

というやつらしい。

まあ、そんなことはどうでもいい。

元気なら。

元気ならいいんじゃ。



ばあさんもわしもそれを、

その小説が本屋に並んでいるところを

この目でみることができない。


あとは孫にたくす。



___だんだんてがつかれてきた。

ちょっとへんかんとかむずかしい。


なんだかまたねむい。

でもすごいしあわせなゆめをみているきがする。





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88歳、わし 小説家になる。 碧海 山葵 @aomi_wasabi25

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