正義の味方、仮面レンジャー仙人!
天猫 鳴
ヒーローを夢見る末っ子仙人
高い高い山の上。
雲を突き抜けて、雲を腰に引っかけたみたいに高い山の上。仙人が住む山の頂きに11人の仙人が住んでいました。
「豆ちゃーーん」
「お誕生日、おめでとう!」
「末広がりの88歳、めでたい」
10人の兄たちが元気良く末っ子の
「・・・・・・え?」
千豆の部屋に彼の姿がない。
「豆ぇ?」
「隠れてるの?」
「出ておいでぇ」
10人の兄たちがそれぞれに千豆を探し始める。
「もしかして、すねてるんじゃない?」
「すねてる?」
「だって、サプライズパーティーばれたくないからって、みんな豆ちゃんの事避けてたでしょ」
みんなして「あぁ」とため息のような声をたてた。
「ちょっと待って、これ見て」
机の上の手紙を見つけた
「お兄ちゃん達へ
僕はこれから仮面レンジャーのオーディションを受けに行ってきます。探さないでください
千豆より」
読みきった千実はにこにこしている。
「豆ちゃん可愛いなぁ。探さないでとか行ってるけどオーディションって書いたら行き先ばれちゃうじゃん、ねぇ」
声をあげて手を叩いて兄たちは大笑い。
「豆ちゃん可愛い」
「可愛いなぁ」
甘々な兄たちはひとしきり笑ったあと、ふと黙り込んだ。そして、最初に長男の
「オーディションって、下界だよな」
千奨につづいて
「仮面レンジャーって、変身するよね」
千蓮が言うと他の兄たちも次々と喋り出す。
「豆、変身ポーズは手を抜かない」
「回り見えなくなっちゃうんだよね」
「仮面レンジャーオタクだから」
「仙人の力込めまくりッ」
「この間なんか力入りすぎて南の方で火山爆発してた」
「あったあった。その前は北の方でも火山噴火してたっけ」
みんなで手を叩いて笑う。・・・・・・が。
「やばくね?」
地上から距離のあるこの場所ですら火山が爆発するのに、地表でやったら・・・・・・。
「やっばッ!!」
「大変だ!!!」
「止めなきゃッ!」
兄たちは大慌てで山を飛び降りた。
「豆ちゃん、やめてーーーー!!」
慌てふためきながら人間の姿に早変わり。
「88番、
審査員の前に行儀良く立った千豆が顔を引き締めて変身ポーズの最初の形を作る。
「闇に光り、天より出でし我こそは・・・・・・」
ライトを浴びてもいないのに千豆に後光がさす。
「ん? こんな演出用意してた?」
きょとんとする審査員。
「仙人界のアイドル」
「んっ!?」
「なんだ?」
遠くからドラムの音と共に地響きが近づいてくる。
「地震!?」
窓がカタカタと音を立て、足元から振動を感じて審査員達が慌て出す。
「その名も・・・・・・」
「豆ちゃーーーーん!!」
突然現れた兄たちに羽交い締めにされ、千豆は口を押さえられた。
「もごもご」
ジタバタともがく千豆を押さえたまま、兄たちは部屋にいる人々に笑顔をふりまく。
「わぁ・・・・・・格好いい」
男女問わず、その場にいる人々がとろんとした顔で彼らを見つめる。
人の姿になった兄たちの美しいことと言ったら天女も見惚れるほど。人間達が心を奪われないわけがない。
「すいません、家の子が」
「家族会議しますんで」
「ごめんなさいね」
「失礼します」
審査員やスタッフ、オーディションを受けに来た他の人たちに頭を下げて兄たちは千豆を撤収していった。
彼らの去ったあと、夢から覚めたように意識を取り戻した審査員達はオーディションを続けたそうだ。
そうして人知れず地球は無事に今日も1日を終えることが出来たのだった。
ただ、誕生日の主役である千豆だけがしょぼくれていた。
「僕、仮面レンジャーになれそうだったのに」
「豆ちゃんは生まれもっての正義の味方なんだから」
「仮面レンジャーより格好いいよ」
「可愛いし」
「可愛いって言われてもなぁ・・・・・・」
口を尖らせて千豆はうつむいている。
「88歳、おめでとう」
「めでたくなんてないよ」
「そんなことないよ」
「僕、早く千歳になりたい。千年生きたら神様に願い事を聞いてもらえるから」
「豆ちゃんの願い事って何かな?」
「世界平和?」
パッと顔をあげた千豆が立ち上がった。
「そう、世界平和! 仮面レンジャーに加入できるように神様にお願いするんだ」
千豆が元気を取り戻したのは良いが兄たちは複雑だ。
(んーー・・・・・・。その頃に仮面レンジャーがあるかわかんないけどね)
千豆は困った顔で見交わす兄たちに気づかない。
神様に断られるその日まで、千豆は夢は続くのだった。
□□ おわり □□
正義の味方、仮面レンジャー仙人! 天猫 鳴 @amane_mei
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