第4話
「ご馳走様でした。とっても美味しかったです。…ありがとうございました」
お店の外に出て、女の人に軽くお辞儀をする。
「いえいえ、こちらこそありがとうございました」
女の人は優しい笑みとゆったりとした口調で言う。
「あの、」
私が言いかけると、女の人は私の言葉の先を待ってくれる。
恥ずかしさから目が伏せがちになる。
「…分かった気がします、自分のことが。…何をしたいのかが」
女の人がどういう顔をしているのか気になって、ゆっくりと目を上げる。
視線が合うと、女の人は一瞬目を丸くして、次の瞬間、春がきた事を喜ぶ草花のような笑顔になった。
「それは、良かったです」
女の人の優しい笑顔を見ていると、こちらまでつられて微笑んでしまう。
ふと、
あれ?
と、あることに気が付いた。
私がさっきこの店まで歩いてきた道の隣に、もう一本別の道がある事に。
その道は私が歩いてきた道よりも幅が広くて、地面は土でボコボコしてるものの、道の両脇には鮮やかな緑の草木が生え揃っていた。
黄緑色と若草色の優しい緑に包まれた道。
歩いてみたい、と思った。
この道を。
この道の先が思っていたものと違うかも知れない。
歩きづらくて、転ぶかも知れない。
迷うかも知れない。
でも、それでも、この道を進んでみたい。
自分がすてきだと思う道を歩きたい。
「じゃあ、私そろそろ行きますね」
女の人にもう一度軽く会釈をする。
「はい、またいつでも来てください」
若芽色のワンピースを揺らして、女の人は暖かい風を受けて揺れる木々のように優しく微笑んだ。
女の人に背を向けて、緑に囲まれた道へと向かって歩き出す。
その瞬間、強くてとても優しい風が吹いて、私の髪を揺らした。
冬がもうすぐ終わる事を告げるような、暖かい風だった。
この道の先 kinatu @ki_natu
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