暴言

高黄森哉

等価

「ちーちゃんの馬鹿。ちーちゃんは、生まれが悪いから、そんなに馬鹿なんだ」


 ちーちゃんは、友達のたえ子ちゃんにぴしゃりと叩きつけられ、床を見つめ黙り込んでしまいます。そうなのです。ちーちゃんは馬鹿なのです。引き算の順番を間違えて覚えており、計算するとマイナスが出て来るので、いつもそこで止まってしまいます。


「そんなことないやい」

「そんなことあるやい。だって、引き算もできないんだもん」


 たえ子ちゃんも、ちーちゃんの正面でやはり床を見つめています。それはちーちゃんと同じ床のタイルです。どちらも、喧嘩をしているので目を合わせにくいのでした。



「引き算が出来ないからって、生まれを馬鹿にされることはない」

「ううん。生まれが悪いから、引き算が出来ないだから、仕方がないやい」


 ちーちゃんは、また黙り込んでしまいました。実際、生まれは悪くないのですが、そうたえ子ちゃんに指摘されると、なんだか生まれが悪いような、そんな気分になるのです。急に自分の存在がすまなく思えました。


「どうして、引き算もできないのか。それは、生まれたときから脳みそが詰まってなかったからだ」


 黙り込んでいると、たえ子ちゃんに、そう断定されてしまいます。実際、脳みそは詰まっているのだけど、たえ子ちゃんに指摘されると、なんだか脳みそが詰まってないような、からっぽな気分になります。空虚さが頭を満たし始めました。


「負け組」

「うるさい」


 たえ子ちゃんの横面を、ぐーで殴ります。


「いたい。いたい。暴力はいけないやい。卑怯なの」

「一回は一回だい」


 復讐法の名の下に、正義の鉄槌が、顔の表面にあざじゃない所がなくなるくらい、振り下ろされます。―――――― ちーちゃんには、暴言も暴力と同じに思えたのです。実際、暴力も暴言も同じくらい下品なものなのです。

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暴言 高黄森哉 @kamikawa2001

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