お嬢様、「あの人たちの魂胆」を暴く

 そう、あれは、お嬢様とご学友のお嬢さんとの会話。学校の方針で、混み合う電車通学中には座席に座ることがない2人は(学校の方針で、運賃半額なのだから弁えなさい、もっとその座席を必要としている人がいるはず、と言われているとのこと)、扉の脇のスペースに収まって、間もなく始まる冬休みの予定話していた。


「うちはね、おばあちゃまのところに遊びに行くの。すっごく楽しみ!」

「あら、素敵ね」

「貴禰さんは、どこかにいらっしゃるの?」

「例年、3泊4日のスキースクールで、その後、お父様お母様と旅行なんだけど」

「いいわね!」

「でも今年は、スキースクールが長期コースになっていて。お父様が、もっと滑れるようになると楽しいよ、っておっしゃって。…でもね、私、気づいてしまったのよ、あの人たちの、魂胆に」

「え? 魂胆? あの人たち、って??」


ご学友は困惑した声。私も、思わず耳をそばだてた。


「スキースクールの話が出た翌日、お父様の紙の図鑑を借りようと思って書斎に入ったら、卓上カレンダーに丸が付いているのに気付いたの。それが、私がスクールに出発する当日じゃなく、翌日だったのよ」

「? うん」

「で、書斎の中を見回したら、付箋を貼った旅行ガイドブックが置いてあって」

「うん」

「付箋のあるページをめくってみたら、南洋4ヵ国クルーズの案内が載っていたの。期間は、1週間」

「え、つまり?」

「つまり、あの人たちの魂胆は、私をスキースクールに送り出したら、その翌日何食わぬ顔でクルージングに出かけて、でもって、私が戻る前に帰国して何事も無かったかのように出迎えるつもりなのよ」

「そ、そうなの…?」

「ええ! 私を置いて、2人だけで楽しむつもりなのよ」

「貴禰さん…」

 お嬢様は背を向けているけれど、鬼気迫る表情であろうことが怯えたようなご学友の表情から見て取れた。と、

「はぁ~…」

 お嬢様、ため息1つ。それから、ふっと力を抜いて、言葉を続けた。

「でも、いいの。私、マリンリゾートや船旅って、正直あんまり魅力を感じないし。それよりも、夏に行く西洋諸国のリゾートとかのほうが肌に合っているのよね」


 長期休みは家族で海外旅行、それもしょっちゅう―。そうと知れる発言にご学友は瞠目し、やや経ってから感嘆したように、貴禰さんのおうちって、本当に、お金持ちなのねえ、と言った。

「そうかしら? 普通じゃない? 長いお休みに遠出するのは」


        ***


 いやいやいやお嬢様、それ、全然普通じゃないですよ!?? 遠出なんてそうそうできないし、よしんば遠出はしても国内がほとんど。一家揃って毎度海外に行くなんて、そうそうありませんて!!! なんて、あのときは、見つからないよう注意しながらも全力でツッコミを入れてしまったのよね。自分が暮らす環境で、常識は変わるものよねえ。

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うちのお嬢の言うことにゃ~初海さんと貴禰ちゃん はがね @ukki_392

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