第4話私がお母さんでいい
次の日
「今日ママとパパ帰ってくるんでしょ?」
那雪ちゃんは不思議なことに2人が帰ってくる日にちを知っていた
「……うん」
私は嘘をついてしまった
「早く帰ってこないかなー」
那雪ちゃんは何も知らない
5歳の那雪ちゃんにはわかるはずもない
「ママたちが帰ってきたら今度は沙友理さんがお家遊びに来てよー」
ごめんね那雪ちゃん……
「ママとパパたち沙友理さんのこと大好きだもん!」
「那雪ちゃんごめん!」
少し大きめの声で那雪ちゃんの話を終わらせた
「なに?」
那雪ちゃんは首を傾げて聞いてくる
その純粋な目を見てるとすごく罪悪感が湧いてしまう
「ママとパパね……戻ってこないんだ…」
私がそう言うと
那雪ちゃんは困った顔をして
「なんでー?今日帰ってくるって言ってたもん!
寝る前にチョコ1個ずつ食べてチョコが無くなったらママたち帰ってくるって言ってたよ?」
那雪ちゃんはチョコが入っていたごみを3つ見せてきた
雪菜は那雪ちゃんを本当に理解してるんだなと感心してしまった
すごい…
雪菜は那雪ちゃんをちゃんと娘として愛していた
だから3個チョコを食べたら帰ってくるってわかったんだ……
雪菜の優しさを今になって痛感している
「でもね那雪ちゃん……ママとパパは帰ってこないよ」
「なんでー?まだ遊んでるのー?」
「違うよ……」
「なんでよー!早く帰りたい!」
「ママとパパは!!」
私が大きな声で言うと那雪ちゃんはまた黙る
「ママとパパは……天国に行ったんだって」
「……天国?」
那雪ちゃんは理解出来てないなかった
「そうだよ…天国に行ったの…」
「死んじゃったってこと?」
「……そうだよ」
「でもまた生き返ってくるよね?」
「……生き返らないよ……」
私は無邪気な那雪ちゃんを見ていると涙がまた溢れる
「なんで……」
那雪ちゃんも目に涙を溜めていた
「いつ帰ってくるの?」
「……ずっと帰ってこないよ」
「……やだぁーー!!!!
おうちに帰るーー!!!」
那雪ちゃんもついに泣いてしまう
そんな那雪ちゃんを私は抱きしめた
「……ごめんね…」
それでも那雪ちゃんは泣き止まない
でもこうするしかなかった
私も泣きながら那雪ちゃんを抱きしめて
1人になった那雪ちゃんと妹を失った私の現実を受け入れようとしていた
3日後に雪菜と良太の葬儀が行われた
那雪ちゃんはまた3日間私の家で過ごしていた
その葬儀に行くと
「沙友理……」
私の両親がいた
「お父さん…お母さん……」
私の姿を見ると
「俺はな……だからダメだって言ったんだ…
こういうことになるから……」
「そうよ…親より先に死ぬなんて……親不孝者よ…」
母親と父親は涙を流していた
でも……雪菜はそうじゃない…
「お母さん…お父さん…
雪菜ね、ちゃんと那雪ちゃんに礼儀を教えてたんだよ
那雪ちゃんの好きなご飯も好きな絵本も好きなアニメも
全部知ってるし…私が那雪ちゃんを預かる時も那雪ちゃんの心配しかしてなかったよ……
だから…雪菜はお父さんとお母さんと一緒で
那雪ちゃんを愛していたから心配していたの…
ちゃんと雪菜もお母さんだったよ…」
それを聞く両親は
「……そんなことわかってるんだ…」
父親が泣きながら言った
両親も心の中では雪菜が大人になって立派になったんだって思っていても認めたくなかったんだと思う
でも……それを早く認めてあげたら
もっと雪菜は幸せだったんじゃないかな…
葬儀が終わって家族で話す
那雪ちゃんは疲れて寝ている
「沙友理、那雪ちゃんは今後どうするの?」
母親が言ってきた
「……ああ」
私も少し悩んでいたけど
那雪ちゃんの寝顔を見ていると
雪菜を思い出す
雪菜もこんな風に散々遊んだ後に静かに寝ていた
だから私は
「那雪ちゃんは…私が育てるよ」
「「は??」」
2人は雪菜が妊娠した話をした時と同じ反応をした
「何言ってるの?」
母親は私に言った
でも私は何も言わせなかった
「お母さんとお父さんが、雪菜の事で後悔した分
私が2人を後悔させないように那雪ちゃんを育てるの
雪菜も私も2人の娘なんだからね」
私がそう言うとだんまりする2人
「……そうか、じゃあわかった」
即答だった
那雪ちゃんは…
雪菜と良太に変わって私が育てることになった
次の日
私は今まで勤めていた会社を辞めてなるべく早く帰れる仕事をする準備をした。
那雪ちゃんのためだった
雪菜と良太のようにはなれないけど
那雪ちゃんは私が育てるから
仕事から帰ると那雪ちゃんは寝ていた
食べては寝ての繰り返しか
それが子供らしくてかわいい
「那雪ちゃん、起きて」
私は那雪ちゃんを起こす
「んー?」
ぼーっとした那雪ちゃんを私は抱きしめた
「今度から私が那雪ちゃんのママだからね」
「……ママじゃない…」
はっきりと言われると少しズキっとくるが
「ううん、那雪ちゃんのママは私だよ」
「ママは1人だもん」
……そうなんだけどさ
どうしたもんかなー
……わかった
「じゃあお母さんでいいよ!」
「何が違うの?」
「一緒だけど…ママは1人だけどお母さんは私だよ」
「へんなのー」
ずばずば言うのが子供なんだよね…
「私がお母さんでもいい?」
那雪ちゃんに聞くと
「……うん」
そう言ってくれた
そして
那雪ちゃんが幼稚園入学式の日
「沙友理さん、ここどこー?」
「お母さん、でしょ?」
「そうだったーお母さんどこに行くのー?」
「幼稚園だよー」
「お母さんも一緒に来てくれる?」
「お母さんは行かないよー」
「なんでー?」
「那雪がお友達と仲良くするのにお母さんいたら邪魔でしょー?」
「あー確かにー!」
「おい」
幼稚園になってから那雪は友達も出来た
ただ私は那雪の本当の母親じゃないってことが親御さんたちに知れ渡って
那雪の友達が私の家に来ることはなかった
寂しい思いさせてごめんね
でも那雪ならお友達いっぱい出来るよ
那雪が小学生になった時
「お母さん、詩織ちゃんと遊んでくる」
「うん、いってらっしゃい」
やっぱり友達出来てたんだね
安心する
中学生になると
「お母さん!部活何がいいかなー?」
「えー?やりたい部活は?」
「いっぱいあって数えきれない!」
「そんなことある…?」
ある日は
「お母さん!彼氏出来たよ!」
か、彼氏!?
「そ、そうなの!?よかったじゃん……」
那雪に彼氏か……と思ったら
半年後には
「お母さん……彼氏に振られた〜〜」
「失恋の味を今のうちに知りなさい」
那雪はどんどん大きくなっていった
あの頃子供だった那雪だったけど
那雪は素直でいい子で誰に対しても優しかった
まるで昔の雪菜を見てるみたい
私は那雪のお母さんで居れてよかった
那雪が初めて美容室に来た時も
早めに私がカラーをしてもらってる時に那雪は一人で美容室に来た
その時におどおどしながら
「お母さん……」
と受付を無視して真っ先に私の元へ来た
そうだよ、私は那雪のお母さんだから
「すみません、うちの娘なんです」
美容師さんにそう伝えた
苗字は違うけど、私の娘は那雪だけ
那雪が私をお母さんと呼ぶから
私は那雪を娘と呼ぶ
本物の親子ではないかもしれないけど私はそう思う
高校の入学式が終わり那雪の姿が見えた
私の姿を確認すると那雪は笑顔で走ってきた
「お母さん!ハンバーグ食べたーい!」
「はいはい、じゃあ行こうね」
那雪と2人で暮らしてるけど
結婚?もちろんしてないし相手も居ない
必要ないとも思ってる
だって私には……
「久しぶりだね、お母さんとご飯行くの!」
「だからって手繋ぐことないでしょ?」
「だってー私のたった1人のお母さんだもん!」
こんなにも愛おしい娘がいる
私の家族は那雪だけ
だから私は一生、那雪のお母さんでいい
だって私は娘を愛しているから
End……
私がお母さんでいい ゆる男 @yuruo
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