見えない怪獣

結騎 了

#365日ショートショート 074

 ワイドショーに出演したアメリカ人のサイキッカーは、怪獣の出現を預言した。

「明日、それは東京を壊滅させます。人智を超えた質量を持ち、海の底に姿を現すのです。あまりに大きいため、我々には海が膨らんだように見えるかもしれません。やがて、その怪獣が海底で足踏みをします。……ずしん。……ずしん。東京は脆くも崩れ去るでしょう。残念です、平和な都市が明日で終わりを告げるなんて」

 誰も、まともに取り合わなかった。深夜のワイドショーに出演した、胡散臭い超能力者の戯言だと。寝酒の肴にもなりゃしない。

 翌日、東京は揺れた。建物は軒並み倒壊し、あちこちで液状化現象が起きた。やがて発生した火災は、襲いくる津波に飲み込まれた。日本の首都はあっという間に都市機能を失い、いくつかのビルだけが閑散と残る、瓦礫の平野と化した。

「あれは怪獣のせいだ」

 それは、SNSで広まった。テレビ画面のキャプチャー画像には、目の青いアメリカ人が映っていた。テロップつきの画像データが瞬く間に拡散されていく。#怪獣災害 #預言者 #怪獣のせい #怪獣を討伐しろ。やり場のない思いがデモ隊を生み、瓦礫に囲まれた国会議事堂に詰め寄った。母を失った。子を失った。妻を失った。父を失った。夫を失った。どうして政府は怪獣の出現を予見できなかったのか。自衛隊はどうした。それが国防か。なんのために税金を投じているんだ。

 誰もが怪獣を憎んだ。憎悪の対象はやがて形を成し、姿が描かれていく。海の底を歩く巨大な影。禍々しい体表と寂し気な瞳。プリントアウトされたそれは粗雑な看板に貼られ、ペンキでバツ印がつけられた。怪獣を許すな。怪獣を許した政府を許すな。この国の腐敗を許すな。

 街は復興する。瞬く間に復興する。誰もが怪獣の討伐を夢見て。その憎悪はビルを建て、道路を走らせ、人々を働かせた。滴る汗水すら、怪獣を殺すことを願っていた。

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