祖父と孫

呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助)

第1話

「たっくんお誕生日おめでとう」

「ママ」

 今日は息子、拓耶タクヤの8歳の誕生日。まだ眠い目をこすって、お気に入りのクマさんのぬいぐるみを引きずるようにリビングに連れてくる。

 半分寝ぼけていたのか、立ち止まるなりキョロキョロと辺りを見渡す。

「あれ? ママ、おじいちゃんは?」

「何言ってるの。おじいちゃんはたっくんが生まれる前にもう亡くなってていないでしょう?」

「そうなんだけど……さっきまでおじいちゃんと一緒にいて、『おめでとう』って僕に言ってくれたんだけどなぁ……」

「あら。じゃあ、おじいちゃんもたっくんの誕生日をお祝いしたかったのかしら」

 結婚して同居した義父が他界してから、もう9年になる。やっと授かった孫を楽しみにして『病に打ち勝つんだ!』と言っていたけれど、吉報を報告してから数ヶ月後には帰らぬ人となった。

 義父が孫と会うのを楽しみにしていたからと一文字頂いて『拓耶』と名付けたけれど、会ったことのない拓耶がおじいちゃんを夢に見るくらいに会いたかったのだろう。

 そういえば……。

「おじいちゃん、88歳で亡くなったのよ。『8』がたっくんとお揃いだから、お祝いしたい気持ちを抑えきれなくなったのかしら?」

「そっか……。あれ? ママは何歳だっけ?」

「ママは37歳よ」

「パパは?」

「パパは43歳」

「ママは37歳……パパは43歳……僕が8歳になったから……あ!」

 やっと座ってフォークを持った拓耶が驚いたように叫ぶ。どうしたのかと私も驚いたが、拓耶は何かに気づいたかのようにニッコリと笑っていた。


「みんなを足すと88歳になるんだ! おじいちゃんと一緒だね!」


 そうか……義父は拓耶をお祝いしたいだけじゃなくて、私たちと一緒になって『家族』でお祝いをしたかったのかな……。

「たっくん、お線香あげようか」

「うん! たっくん、8歳になったよ。みんな元気だよっておじいちゃんにご報告する!」

 パッとフォークを離し、スッと立ち上がった拓耶は仏壇へと駆けだす。


 私が着いたころにはきちんと座り、まだお線香をあげていないのに『ナムナム』と手を合わせていた。


 シュッとマッチをつけると、拓耶が不思議そうに炎を見上げる。火薬の匂いとお線香の匂いを拓耶がすぅっと嗅いだ。

「いい匂いだね」

「そうね」

「ママも一緒にナムナムしよ!」

「うん」

 拓耶のとなりに座り、私も一緒に手を合わせる。


 ──お義父さん、拓耶も私たちもお陰様で元気に過ごしています。これからも見守っていて下さいね。

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祖父と孫 呂兎来 弥欷助(呂彪 弥欷助) @mikiske-n

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