免許返納
柳生潤兵衛
雄二(八十八歳)
「いや~、米寿を迎えるにあたって自動車の運転免許証を返納してきましたよ。車も売りました。」
雄二が雄一に切り出した。
「もうそんな歳になるか。でも雄二、どうしてまたそんな事をしたんだ?」
「72歳を超えると、三年に一度、免許を更新しなければならないじゃないですか?」
「ああ」
「75歳を超えると認知機能検査も受けなければいけないですよね?」
「そうだな」
「それに加えて色々な講習を受けさせられるわけですよ」
「そうだよ」
「面倒ではないですか? 三年に一度、何カ月も前から免許の更新に合わせて、講習に申し込みをしたり受けたり」
雄一は「お前の言っている事は分かる」としながらも、雄二に続ける。
「高齢者の運転する車の事故が増えているのだから仕方がないよ。高齢者同士の事故ならまだしも、高齢者の我々が若い世代を傷つけるような事は無い方がいい」
「そうですよね。まぁ、免許返納の特典もありますからね。ここら辺のレストランとか買い物やタクシー代も少し安くなりますし、年金生活者にとっては良いかもしれません」
「そう! 無くしたモノより、これから得られるモノを考えた方がいい! 前向きになれるしな」
雄一の言葉に、雄二は元気になったが、雄二には気がかりな事がある。
「でも、これまでよりもここに尋ねてくる頻度が減ってしまうかもしれません。これまでなら気軽に来れたものですが……」
「はっはっは! そんなこと気にするな雄二。お前が来られないなら、俺が行くさ。今日も俺がお前の家まで車で送って行ってやる。タクシーなんて呼ばなくてもいい」
「大丈夫ですか?」
「なに、心配いらないさ。毎日運転しているし、俺は無事故無違反のゴールド免許だぞ」
「では、お言葉に甘えて送ってもらおうかな。お父さん」
「お前を乗せて走るなんて、お前の学生時代の送り迎え以来だな。七十年振り位かな」
「そんなになりますか……懐かしいですね」
こうして雄二(八十八歳)は父・雄一(百十歳)の運転する車で自宅に帰った。
免許返納 柳生潤兵衛 @yagyuujunbee
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