第4話:うまい飯は五臓六腑に染みわたるんです

「あああああ……」

リュウジの食堂のテーブルに突っ伏して、大げさにガタガタと震えるレンが居た。

「いいじゃないの、生きて帰ってこれたし。お肉取れたしー」

向かいに座るライトには、いつもの気楽さが戻っていた。

「良くないっ! だって、相手、マッドカウだよ!? こんな苦戦するような獣じゃないんだって。こんな、満身創痍で挑む相手じゃない……」

最初は大げさに振る舞っていたレンは、段々と真顔になってきた。

「そうだねー、極楽鳥といい、クリスタルを身に着けたモンスターをよく見るのって不思議だねー……」

ライトも神妙な面持ちで頷く。

「獣やモンスターが好き好んでアクセサリー付けるわけないじゃんか。誰かが意図的にやってんだと思うんだよな」

「僕らが会ったやつら、長所と短所に有効にはたらくクリスタル選んでもらっていたもんねー」

「誰か知らんけど、何を目的にしてるんだろうな」

「……」

今は答えらしいものが導き出せず、二人は黙った。


「お話終わった? 」

シャノンが水の入った透明なボトルを持ってきた。よく見るとレモンやオレンジなどの柑橘類が入っている。

「お疲れ様。今日はどうもありがとう。お水入れるね」

注がれる水をぼんやり見つめ、満たされれば手に取って、二人は口に含んだ。

「……うまっ! なんかすげー飲みやすい! 」

驚いてレンは声を上げる。

「今日は草原を出て赤土のところまで行ったんでしょう? 暑かったよね。柑橘系だったら飲みやすいと思うから、置いておくね。じゃあ、料理が来るまで待っててね」

ボトルを置いて、シャノンは厨房へ去って行った。

レンは柑橘水を一気に飲み干した。マッドカウを倒した直後も、HPの回復のためポーションをガブ飲みしたが、美味しさはその比ではない。適度な酸味が回復魔法や薬では得られない、心地よさを導いてきた。

「今日は、ご飯を楽しもうよー。難しいことは明日考えよー」

ライトが気楽な調子で言う。そうだ。今日は色々大変だった。真剣に考えるのは明日でいい。


 言葉少なに柑橘水を飲んでいた二人の前に、大皿を持った男が現れた。リュウジだ。

「お待たせ! 二人が取ってきてくれたマッドカウの肉を使った【夏野菜とマッド合いびき肉の味噌炒め】だよ!」

リュウジが大皿を置いた直後に、シャノンが二人分の山盛りご飯とたまごスープを置いた。食事の準備は万端だ。

レタスが敷かれた大皿に、素揚げした夏野菜を肉味噌で炒めたおかずがテーブルに鎮座している。肉の脂を強調する旨味の強い香りと温かい湯気。絶えず立ち上るそれらは、白米と合わせたら最高に違いないと想像させる。

予想以上に食べ応えがありそうで、二人は口を半開きにして大皿を見つめた。

「食べないの? 」

二人があまりにも固まっているものだから、リュウジは噴き出して声をかけた。

「食べるよ!」

「もう食べてもいいー?」

お伺いをたてる二人にリュウジは答える。

「どうぞ。召し上がれ」


「「いただきます!!」」


これほど真剣にいただきますを言ったことがあるだろうか。目の前の料理を食べたい気持ちに押しつぶされそうな気分だ。


まずは肉味噌だけ口に運ぶ。ああ、肉だ。しかも適度にすりつぶされているから、疲れた身体には食べやすい。噛むたびに溢れ出す肉汁は、口の中で舌を刺激していく。箸が全然止まらない。

肉に少し満足して、とにかくお腹が減っていたことを思い出す。白米をがぶりと口に含む。さっぱりした甘みが、脂だらけの口内を少しスッキリさせる。飲み込んだときののど越し、お腹に到達したときの温かさ。冗談抜きに、舌だけじゃなくて身体が喜んでいると実感した。


「……美味しいねー」

旨味に圧倒されて、しばらく黙って料理と白米をかきこんでいた二人だが、ようやくライトが口を開いた。

「うん、うまいーーーー……」

「え、ちょっと泣いてんのー?」

「泣くよこんなのーーー、今日は大変だったんだよマジでーーー」

レンは美味さで感情のタガが外れている。でもそうだ。予想外に今日は九死に一生を得るような体験の連続だったのだ。


「ご飯のおかわりは……、わっ、レンどうしたの!?」

シャノンが涙でぐずぐずのレンを見て驚く。

「貰うーーー」

泣いてたことは流して、レンはおかわりを要求した。脂がすごく旨くて、箸も米も進む料理なのだ。

「ちゃんと野菜も食べなよね。旬のものを、味の濃い肉に合うように素揚げしてもらったの」

去り際にシャノンが言った。

「ほんとだ、野菜も肉味噌に合うよ。シャキシャキする。下にしかれた、ソースでしなしなしたレタスも、ご飯に載せると美味しいよ」

ライトが笑いながら言う。

「白飯のおかわり来たら、そこにあるお酢を振りかけてみな。さっぱりして、さらにご飯が進むから」

「えー、やりたいー! 僕もおかわりする!」

ライトが急いで残りのご飯をかきこんでリュウジにお椀を渡す。

「了解! 二人とも、今日は肉の納品ありがとうな。沢山食べていってくれ! 」

リュウジは笑顔で言って厨房へと戻っていった。


「なあライト、飯いっぱい食べて、また明日から頑張ろうな」

レンはライトをまっすぐ見て言った。

「もちろんだよー! 」

ライトは頷いた。

「お待たせ、二人とも! おかわりだよ! 」

シャノンが山盛りのご飯を2杯持ってきた。二人の夜は、まだまだ終わりそうもない。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

攻撃力全振りしたスキルしかない紙防御ですが、今日も相方の補助魔法に助けられてます。 ろさこ @rosadablue

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ