88歳のラブレター

嬾隗

おばあちゃんのラブレター

 おばあちゃんが亡くなった。88歳の誕生日の数日後だった。家族と一緒に同居していたおばあちゃんは、寝ている間に冷たくなっていた。苦しそうな顔をして。


 葬式を済ませ、おばあちゃんの部屋を掃除していると、2通の手紙を見つけた。どちらも私宛だった。

 片方は遺書と書かれていた。




 私が死んだら、おじいちゃんとは同じお墓に入れないでください。

 できれば、新しいお墓を買って入れてください。

 私は、あの人と同じお墓に入る資格はありません。

 懺悔してもしきれません。




 だいたいは、こんな感じのことが書かれていた。

 おじいちゃんは、もう何年も前に亡くなった。おじいちゃんも、ベッドの上で苦しそうな顔をしていた。


 もう一通は、ラブレターと書かれていた。




 愛しいあなた、ずっと黙っていてごめんなさい。

 私は、恋人がいるにも関わらず、あなたとの関係をずっと断ち切れなかった。


 あなたの子供を何度か生みました。

 夫には黙って何度もごまかしました。

 年に数度しか会わなかったのはそのためです。


 あなたとの子供はみな立派に育ちました。

 私は、幸せであると同時に、不幸です。

 許婚とは、お見合い結婚とは、忌むべき文化だと思います。


 誰にも明かせなかった。

 誰かに聞いて欲しかった。

 もう間に合わないから、この手紙は孫に託します。

 遺族の方に渡せることを願っています。




 知らない人に宛てたもののようだった。

 私は、手紙を胸に当てて人知れず呟いた。

「恋って、大変だなあ……」



   完

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88歳のラブレター 嬾隗 @genm9610

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