まったりしてたら急に、彼女が88歳の老夫婦ごっこをしようと提案してきたのだが……?

さばりん

彼女は俺と88歳までイチャイチャしたい

 休日の日曜日。

 俺、優人ゆうとが優雅にコーヒーを啜りながら、午後のひと時を過ごしていると、突然後ろから彼女である奈菜が手を回して抱きついてくる。


「ねぇ優人」

「ん、どうした?」

「んっ……」


 振り向くと、彼女が目をつむって唇を突き出してきたので、俺も答えるようにして軽く唇を重ねた。

 軽いキスをしてあげると、奈菜は嬉しそうな笑みを浮かべてさらに身体をくっつけてくる。


「はぁ……」

「ん?」

「幸せっ♡」

「なら良かった」

「えへへっ……」


 イチャつく奈菜は、俺の肩へ顎を乗せてべったりとくっついてくる。


「ねぇ、優人」

「何?」

「来週さ、おじいちゃんが88歳の誕生日なんだけどさ、何プレゼントしたらいいと思う?」

「うーん、88歳の人って誕生日に何が欲しいんだろうな?」

「分からないよねぇー。多分おじいちゃんも『わしゃ、プレゼントなんぞ要らんから、早く孫の顔が見たいのぉー』とか言い出しそうだし」

「あぁ……なんか分かるかも」


 大体老人になってくると、お誕生日は嬉しいものではなくなってくるので、娘の晴れ姿や孫の姿が見たくなるというしなぁー。


「ねぇ、今から88歳って言う設定で老夫婦やってみない? そしたら、誕生日プレゼントに何が欲しいのかヒントが得られるかもしれないし」

「おっ、いいね。やってみようか」


 そうして奈菜が俺の元から手を離したかと思うと、早速腰を曲げて手で押さえた。


「おじいさん、いい日和ですなぁー」


 奈菜おばあちゃんに答えるようにして、俺も顎髭を触るようにしながらおじいさん声を出す。


「そうじゃのぉー。こんな時は、コーヒーがすすむのぉー」

「コーヒーとか、なに西洋なものを飲んでいるんですか。年寄りと言えば日本茶でしょーに」

「いやばあさん。それは偏見じゃ。中にはコーヒーが好きなおじいさんだって世の中にはたくさんいるのじゃ」

「まあそれはおいておくとして、私たちも年を取りましたねぇ……」

「なんだいきなり辛気臭い事言いよって」

「子供は六人とも全員巣立っていきましたし。また二人きりになりましたねぇー。一子はこの前二人目の孫が生まれて、我々の先祖もさぞかし喜んでいる事ですよ」


 六人も生んだ設定なんだ……。

 ってか、孫まで生まれてるとかリアルすぎん?

 突っ込みどころは色々あるけど、仕方がないので話に乗ってあげることにする。


「そうじゃのぉー。一子も随分大変そうじゃのぉー」

「なんなら、私たちも二人きりになりましたし、七人目を作りますか?」

「いや、どう考えても無理だろ!」


 思わず、素で突っ込んでしまう。


「分かんないよ? 私達88歳になっても、まだまだお盛んかもしれないし」

「いや、流石に枯れ果ててるよ……」


 残念ながらその頃には、俺のリトル君も使い物にならなくなっているだろう。


「ねぇ、優人」


 88歳ごっこはもうおしまいなのか、奈菜が甘えるように再び首に腕を回してくる。


「ん、どうした?」

「私達もいつまで出来るか分からないからさ? やれるときにしておこ?」


 そこでようやく、奈菜が何を求めていたのかに気付いた。


「夜じゃダメ?」

「やーだ。今が良いの!」

「ったく、仕方ないな。なら、先行って待ってろ」

「ヤーダー。一緒に行こ? なんならイくときも一緒に!」

「あーはいはい! 分かったから、ほら、とっとと寝室行くぞ」

「はーい!」


 本当にこの調子だと、六人子宝に恵まれてもおかしくないな。

 そんなことを思いながら、俺たちは寝室へと向かって行くのであった。



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