渇望の果て
17✕✕年。水神村で十六夜時雨と十六夜■■という双子が誕生した。
しかし、村にはこのめでたい出来事を祝う余裕は無かった。虫害で凶作が続き、既に餓死者も出ていた。
村の人々は困り果てた。今の水神村では双子を養うことは出来ない。協議の末、兄の時雨が口減らしの為生まれてすぐに殺された。母親は動かなくなった時雨の体を抱き抱えて泣き叫んだ。
こうして時雨の命の灯火は消された。しかしその生命力は、呪いという形で村人達に牙をむいた。
まず生き残った双子の弟が死んだ。その後、生まれてきた赤子が次々と死んでいった。祟りを恐れた村人がお祓いをすると、赤子が死ぬ頻度は下がったが、それでも二、三年に一人位のペースで小さな子供が殺された。
こんなことをしても、無念が晴らされる訳ではないということは時雨にも分かっていた。だが、もはや時雨の意思に関係なく、その怨念は生きようとする者全てを喰らい尽くそうとした。こうして、時雨は悪霊と成り果てた。それから数百年間、時雨はこの村を呪う大悪霊として、村人に恐れられた。
状況が変わったのは、2006年、現在からちょうど十六年前である。水神村で再び双子が誕生した。
双子の兄は虚弱で、生まれた時には既に命が尽きかけていた。しかし、その内なる生命力は横溢していた。
大悪霊となっていた時雨は、その姿にかつての自分を重ねた。この世に生を受けたのにも関わらず、わずかな時間しか生きることを許されなかった自分。容姿も声も性別も、何もわからないうちに殺された自分を。
境遇の似た二人の“生きることへの渇望”が共鳴し、強大なな力となって双子の弟に襲いかかった。
――兄の肉体は朽ち果てた。しかしその魂は弟の肉体を奪って生きながらえた。追い出された弟の魂は村中を彷徨い、小さな祠に行き着いた。弟の魂はただそこで待ち続けた。自分が生き返る日を。
時雨はその日から子殺しをやめ、空っぽの神社に一人で暮らし始めた。今までは、赤子を殺すことで無念を晴らし、復讐することを望んでいたが、それよりも今は、自分が命を救った彼が無事に生きていくことを望んだからだ。
……ボクはずっと一人だった。どれほどの命を奪っても、ボクのことが見える少女と仲良くなっても、ボクの孤独は変わらない。ボクは生きることを許されなかった。
ならばせめて、キミには生きていて欲しかったんだ。キミが生きることが出来れば、ボクはそれで良かったんだ。
でも、もう気づいてしまったんだね。優しいキミはきっと生きることを諦めてしまうだろう。だからボクは戦う。たとえキミが望まないとしても。
略奪人生 〜俺が美少女になってしまった〜 おんせんたまご @tamagochan
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