88の恋

アキノリ@pokkey11.1

88の結婚式

そもそも88歳ともなれば恋はおろか好きという感情すら無くなる。

それが恋愛の原理というもの。

歳を取る度に最高のパートナーとしてしか見れなくなる。

私は千代を見ながらそう思う。


60年間私はパートナーの千代と歩んで来た。

どんな時も。

家を買う時も息子を育てた時もご飯を食べる時も。

常に一緒だった。

だけどそんな千夜を大病が襲う。


白血病。

所謂、血液の癌だった。

千代は私に、お爺さん。私の事は良いですから家の事をして下さいね、と言う。


私はそんな千代を見ながら、恋、について改めて考えた。

何故そうなるのかといえば.....簡単だ。

88になる千代の米寿のお祝いがしたいから、だ。


8は中国では縁起が良いと聞く。

だから私は88の並びで恋をまたしたいと思ったのだ。

初期に戻って、だ。

私は探し始めた。

千代に内緒で、だ。


「.....」


図書館で千代の為に恋を探す。

喫茶店で若者に混じってみる。

コンビニに行ってみる。


だけど私は何も探す事は出来ない。

気付かないのだ。

だから私は外をボーッと眺める日々だった。

私は.....どうしたら惚れ直す事が出来るか。

婆さんを.....愛せるのか。


「私も大概だな。.....こんなジジイが想ってもな」


私は縁側で外を見る。

すると孫の、夢子、がやって来た。

またこんな場所でボーッとしてる、と言いながら。

お爺ちゃん2月なのに風邪引くよ?、と言ってくる。

私はそんな夢子に、そうだな、と言いながら外を見る。


「.....なあ夢子」


「何?お爺ちゃん」


「私の悩みを聞いてくれるか」


「.....お爺ちゃんの悩みって何?外をボーッと見ているだけなのにあるのそんなの?」


「ああ。私にも悩みはある。恋のな」


ビックリする夢子。

そんな夢子をジッと見る。

夢子は可愛らしい高校1年生だ。


恋する女の子では無いだろうか.....意見が聞きたい。

すると優しい孫は顎に手を添えて悩み始めた。

考えてくれている様だ。

そして赤くなりながら答えた。


「私はね。今.....昴くんが好き。男の子だけどね。同級生の」


「.....そうか。それは良いじゃないか」


「昴くんと両思いになりたいなって思う。.....というかお爺ちゃんは何で恋をしたいの?」


「婆さんを好きになりたいんだ。また若い時みたいに」


「.....そうなんだね。良いよね。そういうのって」


夢子は縁側に腰掛けながら私と同じ様に外を見る。

そしてニパッとして私を見てきた。

私は?を浮かべながら見ていると.....夢子はこう言う。

お爺ちゃん。原宿に行こう、と言いながら。

何を言っているのだ。


「私ね。お爺ちゃんは若々しいから何もかもが似合うと思う。それから若者の心理になってから.....お婆ちゃんを愛したら良いんじゃ無いかな」


「それはもうやったのだが」


「ダメダメ。まだまだ爪が甘いよ。お爺ちゃん」


「.....そ、そうか」


言いながら夢子は、じゃあ早速、と立ち上がる。

それから私の手を引いてくる。

ボケ防止だよお爺ちゃん、と言いながら。

私は慌てる。

日曜日とは言え今からなのか?、と言いながら。


「お爺ちゃん。お婆ちゃんの為でしょ?私が来れるのは今月で今日だけだから。だからチャンスは生かさないと」


「.....そうは言っても.....流石に私も体力が.....」


「お爺ちゃん。それは怠けだよ。ダメダメ」


そして私を引き摺りながら。

そのまま立ち上がらせて準備させてくれた。

私は唖然としながらもいそいそと準備をする。

それから帽子を被って杖を突きながら慌てて家を出る。

ニコニコしながら夢子は私を見る。


「原宿で若者の服装をするよ。せっかくの黒髪を、若々しい感じをしているんだものお爺ちゃんは」


「無茶な.....私はこれでも89だぞ.....」


「ダメダメ。行くよ」


それから私を急かす様にして電車に乗ってそのまま原宿に向かう。

そのまま駅から原宿に向かって.....私の手を引きながら歩く夢子。

そして私に、お爺ちゃんはどんな服装がしたい?、と聞いてくる。

私は、いや。私は婆さんの心を満たしたいだけだぞ、と言うのだが。


「大丈夫だよ。今日で見つかるよ」


「.....そうは思わんが.....」


「私ね。実はお母さんにお爺ちゃんのデートコースを聞いちゃったの」


「.....米子め.....余計な事を.....」


「そこを私とデートして辿って行こうよ。お爺ちゃん」


私をお婆ちゃんだと思ってさ、と言いながら孫は私を見てくる。

そんな孫の姿を見ながら私は溜息を吐いた。

それから原宿の人混みに入り。

そのまま服を買ってもらう。

貴方の服じゃ無いのですか!?、と服屋の店員に言われた。



そして私はそのまま黒服であしらった様な服装に変身した。

若者の服装である。

怠そうな、しゃつ?、を着て。

私は少しだけ恥ずかしくなった。


「格好良いよ。お爺ちゃん」


「夢子。お金は」


「お金は大丈夫だよ。お爺ちゃんからお小遣い貰ったしね」


「しかし.....」


「良いから。デートするよ。海辺だよね。先ずは」


言いながらバスに乗ってから。

そのまま海辺に向かう。

その海辺は.....60年前に婆さんとデートした場所だった。

私は驚愕しながら夢子を見る。

夢子は、お爺ちゃん。私の手を握って、と言ってくる。


「手を握ったんだよね?」


「そうだが.....今握っても介護老人の様だぞ」


「年齢は関係無いよ。アハハ」


「.....」


夢子は笑顔を浮かべながら私の手を握り。

海辺を歩き出す。

その際に私は気付いた。

目の前に私と婆さんの姿が見えた事に。

懐かしい感じがした。


「私ね。60年前の天候とかも聞いたの。今日が.....その日だなって」


「.....夢子」


「昴くんとデートしたいし.....今日は私を彼女だって思って」


「.....」


この渇いた目に涙が溢れた。

それを眼鏡を外して拭う。

それから私は孫の顔を見た。

孫が何故か.....千代に見える。

何故なのか。


「お爺ちゃん。懐かしく辿るのが恋なんだよきっと」


「過去をか」


「そう。過去を辿るのも恋だと思う」


「私はそうは思わないが.....」


「.....いや。きっとそうだと思う。全部を思い出すのも必要だよきっと」


「夢子.....」


そして夢子はゆっくり私の手を引く。

それから海辺の先まで歩いた。

そうしてから何日か後に。


私はきめ細やかな服装をして病院に向かい。

千代に向き合った。

そんな千代は驚きの目をしている。


「千代。私はお前に盛大な贈り物をしたくて頑張った」


「.....何をですか?お爺さん」


「夢子とれっすんをしたのだ。.....それは恋愛の」


「お爺さん.....」


「千代。恐らく私達は10年も生きられないだろう。だけどその中でも伝えたい。私は千代。お前が好きなのだ」


「伝六さん.....それで格好良いんですね?今日は」


小馬鹿にする様な感じを見せるが。

千代の目は潤んでいて顔は朱に染まっている。

私はその顔を見ながら笑みを浮かべる。

必死にやった甲斐があった様だった。

それから千代は、お爺さん。私は恋をまた自覚しました、と言ってくる。


「その一言が聞きたかったのだ。死ぬまで一緒に居るからな。千代」


「はい。愛してます。30年ぶりの感情ですが.....お爺さんの頑張りが私の恋を燃えさせました」


「.....千代。頑張ってほしい」


「死にませんよ。死ぬ時は手を繋いで死にましょう」


その千代は頑張ってくれた。

だけど年齢には勝てなかった様だ。

その数日後に亡くなってしまい。

私は孤独な日々を過ごして.....居たのだが。



「お爺ちゃん。此方、昴くん」


「.....!.....君が噂の」


「はい。お爺さん」


「そうか.....お付き合いを始めたのだな」


「.....それで今日はお届け物があって来たの」


私は?を浮かべる。

玄関で2人は頷き合ってから何かを取り出した。

それは.....日記帳の様な物だ。

誰の日記帳かと思ったが.....何と千代のだった。

ずっと私は知らなかった。


「.....お婆ちゃんの病室を掃除したら残っていたから。多分.....入院してから書き始めたんだよね」


「.....そうか」


私は眼鏡を至近距離にして読み始める。

そこには.....千代が1年前から書き始めた記録。

写真が貼られていた。

その文章に私は涙を浮かべて流していると。

最後の写真に驚いた。


「婆さん.....」


そこには私とキスをした婆さんの姿が。

実は互いに米寿のお祝いとして結婚式の様なものをまた病院で行ったのだ。

その時の写真。

病院の方々に撮ってもらったのだが.....恥ずかしい。

そして文章にはこう綴られていた。


伝六さんが頑張ってくれた世界を私は天国に行っても愛しています。


その様にだが。

私は涙が止まらなくなった。

そして私はひとしきり泣いてから青い空を見上げる。


待っていてくれ千代。

また天国で若返ったら.....一緒に恋愛をしよう。

その時もまた永遠の誓いをする。

私がその時になって行くまで待っていてほしい。

そう願う。


fin

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