死ぬか祝うか八十八歳

結騎 了

#365日ショートショート 073

「村長、大変です。今年は米寿が祝えません」

「なんだって、それでは打ち首ではないか」

 さかのぼること数年前、米農家出身の男が、あろうことか将軍まで登りつめた。将軍は米に大変な信仰心があり、その繋がりから、米寿の祝いをとても大切にしていた。八十八の文字を分解すると、米にみえる。八十八歳の米寿を国をあげて祝うべく、将軍は執念を燃やしていた。毎年、全ての村から八十八歳を集め、盛大な祭りを催しているのだ。

 村長の自宅で、村の班長である男は打ちひしがれていた。

「あれから数年、うちの村ではたまたま八十八歳になる者が続き、事なきをえてきたというのに……」

「確かに、トメさんもヤン爺も、八十八を前におっんでしまった。今、一番歳をくっている者は誰か」

「スガさんが、七十二です」

「それでは全然ではないか。よいか、将軍は米寿の祝いが絶対とおっしゃる。このままでは村ごと粛清されてしまうぞ」

「どうして将軍はそんなことを……」

「ええい、そのお考えまでは分からぬ。我々にとって大事なのは、なんとかして八十八歳を祝わねばならぬということじゃ」

「それでは、このような方法はいかがでしょう。年齢がばらばらの者を集めて、合計で八十八歳にするのです」

「なんじゃと。しかしお主、合計といっても、数を数えるのは苦手ではないか」

「これくらいなら訳ありません。任せてください。いいですか、合計で八十八です。これで、なんとか将軍に村の誠意を見せるのです。米寿を祝いたい気概を伝えるのです」

「よかろう、すぐに人を集めよ」

 班長は村を駆け回り、三人の村人を連れてきた。

「村長、こちらから順に。二十歳の青年、五十歳の奥様、十七歳の生娘です」

「合計でいくつだ」

「八十七です」

「なんだと、足りぬではないか」

 村長は思わず立ち上がり怒鳴った。しかし、班長はにやりと笑っている。

「すみません、どうしても村人を組み合わせると、これより八十八に近づけることができませんでした。しかし、思い出してください。村長のお孫さん、明日にでも生まれるというではありませんか」

「それがどうした。生まれてもまだれい歳じゃ」

「そこなんです。伝え聞いたところによると、歳の数え方は文化によって異なります。遠い東の異国では、生まれてすぐに一歳と数えるそうです。生まれて一年目ですから、すでに一歳。これにも説得力があると思いませぬか」

「それは、そうじゃな」

「うちの村はそういう文化だと、言い張りましょう。これで、一歳のお孫さんを足して、ぴったり八十八です。いかがですか」

「ううむ。少し強引だが、筋は通っておる。その組み合わせで、将軍に八十八歳を伝えてみようではないか」

 数日後、村人はそろって打ち首となった。合計が九十一歳のため、将軍の怒りを買ったのである。

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