ある少女の疾病

群青更紗

第1話

 飛島明日菜は痔持ちだった。最初は切れ痔だった。恥ずかしさで医療機関に掛かることを拒み、市販薬を買うことすら躊躇い、辛うじて自宅にあったオロナイン軟膏に助けられた。携帯サイズを自分で買い、常に持ち歩くうちに治った。次に襲われたのはいぼ痔だった。ある日、肛門に何か挟まっているような違和感を覚えた。化粧室でペーパー越しに確認しても分からず、苦労しながら鏡で確認すると、肛門がぷっくりと膨らんでいた。驚いたが、清潔な手指で押し込むと元に戻った。慌ててインターネットで検索して、いぼ痔だと分かった。さすがに今度は観念して市販薬を求め、オロナインと共にそちらも携帯するようになった。

 しかし、明日菜は痔の神に愛されていたらしい。切れ痔、いぼ痔と経験し、あれほど気を付けていたというのに明日菜はあな痔・またの名を痔ろうにまでなってしまった。さすがにこれは市販薬で治すことも出来ず、明日菜は泣く泣く肛門科を受診し、手術をすることになった。家族には言わざるを得なかったが、仕事先へは病名は伏せた。しかし、円座クッションを利用せざるを得ないことは、ほぼ「痔です」と言うようなものだ。せめてもの抵抗として、可愛い動物がデザインされたものを用意した。元々明日菜はその動物のグッズをよく持っていたので違和感は無く――または周囲の優しさにより――明日菜は特に何も言われることは無かった。

 しかし、最大の悲劇が起こるのはこの後だった。治まっていたはずのいぼ痔がいつの間にか再発し、切れ痔も併発して明日菜は過去最大級の出血を見た。月経と思うかの量に、明日菜は自宅で失神しかけた。見かねた家族に救急車を呼ばれて総合病院へ行った。人体の血液量は、成人男性で体重の約8%、成人女性で7%と言われている。全血液量の1/3を失うと生命に危険が及ぶ。幸い明日菜の出血はそこまで酷くは無かったが、しばらくの入院を余儀なくされた。明日菜はベッドの上で、今後はリモートワークをメインにすること、今の仕事でそれが無理なら転職を考えることにした。


 さて、ここまでの話、喜劇でしたか、悲劇でしたか。

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ある少女の疾病 群青更紗 @gunjyo_sarasa

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