第11話
それから、数日が経った。第六研究室は都会の喧騒でくだを撒くデモーショナーの捕獲任務に赴いていた。
「いるぞ、あそこだ」
令は薄暗い路地裏を指差す。ボロボロの段ボールに横たわるホームレスから赤黒いD.Eが放出されていた。
「隱ー縺?縲√♀蜑埼#」
デモーショナーは陽一たちに警戒するようにぼそぼそと訳の分からない言葉を放つ。
「チユキ分析をたのむ」
『もう済ませているわ。+型ね。感情は、怒り、憎悪のハイブリッド。怒りがあるのはレイとしてはラッキーね』
「よっしゃ! サクッと俺がとどめ刺してやるよ」
陽一がデモーショナーの前に出てビームサーベルを構えた。だが、すぐに令に白衣の襟を掴まれてしまった。
「馬鹿、今回お前は盾役だ。下がっていろ」
「あーーーっ!! 本当ひとこと多いのな!」
「どうせトドメは刺せないだろ、お前は俺を守れ」
「嫌だね! 誰がアンタなんか!」
「所詮、お前は俺の盾になるしか出来ねえんだよ。さっさとしろ。ノロマが」
「あああああっ! もう! ムカつくっ!」
令の度重なる暴言に遂に、陽一の堪忍袋の緒が切れた。
「誰がお前の盾なんか、なってたまるかああああっ!!!!」
陽一の叫びと共に巨大な爆発音が轟く。彼から放たれた莫大なE.Eは辺り一面を夕焼けの様な橙色に染める。
その事に陽一自身も気づいたのか、「あれ?」と零した。
「もしかして……俺、E.E出てる?」
「それでいい」
令は、そう言うと、浅葱色のサーベルを構えた。
「後は俺の仕事だ」
令は、D.Eを十分に出力したデモーショナー達に浅葱色のビームサーベルを向けた。
『令。E.E補充は?』
「要らない」
「何ですって!? 貴方のE.E量は……って、上昇している?」
「悪いな、チユキ」
軽く謝ると、令のビームサーベルは音を立てながらガラスの大剣のように巨大になる。
「こいつの顔見るだけでE.Eが補充されるんだよ!」
そう言うと、令はE.Eを堅く凝固させた巨大な剣を振り上げて、デモーショナー達を一振りで仕留めた。
──あれ?こいつ滅茶苦茶強くなっている?
土煙の中、陽一は気づいてしまった。令が以前よりも格段と強くなっていることを。
先ほどの言葉からそのトリガーは案外簡単に分かってしまった。
「もしかしてさ、アンタ、俺の事嫌う事で強くなっている?」
「やっと気づいたのか。馬鹿」
一言多い罵倒に、陽一は「なっ!」と声を出す。
そんな事を気にせず、令は白衣をはためかせて、陽一の方を見つめた。
「これが、俺の実験だ」
令の実験は、陽一の事を嫌い、その悪意をE.Eに変える事。慕っていた照光とでは絶対に成しえなかった実験だ。
「だから、お前も俺を憎め」
令は、そう陽一に命令する。
相乗効果でE.Eが増えるなら効率が良い。これはあくまでも実験である。
強いE.Eを発する憎しみの感情を互いに持ったバディならば誰よりも強くなれると令は確信していた。
だが──
「……嫌だね」
「何?」
陽一は顔を上げて、令の紫の瞳をじっと見つめた。
「アンタの事は大嫌いだ。だから、指図されて俺の感情を決めつけられるなんてごめんだ!」
叫ぶように言う。お前の命令など誰が聞くもんか。と
「俺の感情は俺が操る! これは、俺の実験だ」
陽一は、令の言葉を奪い、宣言した。
これは、実験である。陽一によるの陽一自身の感情の。
「……勝手にしろ」
許可ともとれる言葉を口にして、令は陽一に背を向けた。
感情というエネルギーが、今後、神にどう作用するかは、誰も知る由は無かった。
だが、二人を待ち受ける、残酷すぎる悲劇は、もう二度と起きてはいけない。
第六研究室のエモーショナーズ 宵之祈雨 @Kiu_Yoino
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます