最終話 ただ、君と一緒に
「今日は楽しかったね!」
「そうだな」
暁色に染まる空──夕焼け。
俺達は最後にと観覧車に乗っていた。
ゆっくりなペースで回り、遠くにそびえ立つ高層ビルや山々の景色が見えた。
向かい合って座る二人だけの空間だからか、妙な緊張により額に汗が垂れる。藍音はというと、ひたすらに景色を堪能しているが。
──俺はここで、告白が出来るのだろうか?
今更になって怖気づいてる自分がいる。
あの時に藍音が言った「鷹宮のことが好き」というのは、その場しのぎの嘘だったかもしれないという考えが脳裏をちらつく。
俺の一方的な片思いで終わるのか、それと も
「見て見て鷹宮! あそこらへんに私達の学校が見えるよ!」
「本当か?……って、全く見えない」
藍音の横に行き、景色を眺めてみるも、それらしき建造物が見当たらない。視力は両方1だから見えてもおかしくはないのだが。
「ほらこっち……て……」
無意識に景色ではなく藍音の横顔を見ていた俺と──目があった。
しまったと思った俺はすぐに目を逸らし、外に向ける。
「あぁ、あれか。ここからでも見えるんだな」
気まずさを紛らわすために必死に喉を震わすが、心臓の鼓動は速くなるばかり。
(……そろそろ、決めないと)
出来れば一番上に着くまでに伝えたい──藍音に対するこの気持ちを。いつものようにスラッと言えばいい。
ただ、それだけ……なのに落ち着かない。
俺は藍音の隣に座り、なるべく目が合わないよう外を見やる。
「…………」
「…………」
この状況での沈黙はとにかく辛い。
何か話を振らなければと喉をふり絞るが、話題が出てこない。こういう所で俺は、女子に気遣いが出来ないんだなと痛感する。
──でも、だからそこ……今しかない。
言え。
伝えろ。
告げるんだ──好きだってことを。
「「あのさ……あ」」
俺が喋りかけた所で、藍音と被る。
前にも一度、朝の教室から逃げ出した時にもあった。
「わ、悪い……先に言ってくれ」
「え、その……鷹宮が先に言ってもいいよ」
「……分かった」
藍音に譲られたので、ここは先に言うことにしよう。
大きく深呼吸し、藍音の瞳を見据える。
俺が初恋をした人の瞳は、見ているだけで吸い込まれそうになるほど──綺麗だった。
──その瞳にこれからも俺が映るために、伝えるんだ、この想い……!
「実は、俺。ずっと前から七咲のことが」
自分の想いに身を委ね──口を動かす。
「──好きだった。だから、俺と──付き合ってください……!」
言うと同時に顔を伏せ、目を瞑る。
奥歯を強く噛み、脳内で願った。
──今日という日が、これからのためになりますように……と。
だが、数秒経っても鼓膜に聞こえるのは観覧車が回る音と──静寂。
怖かったが、何とか顔を上げて藍音を見やる。
──そこには顔を伏せ、膝の上で握り拳を作っている藍音がいた。
そして。
「…………ばかみや」
そんな言葉を吐いたかと思うと、バッと急に顔を上げ、俺と目が合った。
──その顔は、必死作り笑いをしてるように歪めていたが、目元を伝う涙が意味を成していなかった。
「私が、先に……言おうとしたのに、何で言っちゃうのよ──ばか」
「──!」
今、ここに。
「……こんな私で良ければ、よろしくね──鷹宮」
繋がれた、二人の想いが。
形となって────
────────────────────
──それから5ヶ月後。
「よし、行くか」
俺はアパートの扉を開け、外に出た。
今日から二学期が始まる。長いようで短かった夏休みが終わり、久々の学校だ。
「お兄ちゃん、待って」
すると後方からそんな声が聞こえ、振り返ると制服姿の静奈がいた。
「えへへ……どう? 似合ってる?」
「似合ってるな、静奈。流石は俺の妹だ」
言って、頭を撫でる。
今日から静奈は学校に行く日だった。
4月からの5ヶ月間で必死に外に出ることを克服した静奈は、学校を転校して違う中学に通うこととなったのだ。
こうして制服姿の静奈を見るのはいつぶりだろうか……感動で涙が出そうだ。
俺達は階段を下り、アパートの敷地を出ようとする。
すると──
「おっはよー
塀の裏から急に藍音が飛び出してきたかと思うと、静奈に近寄っては目をキラキラさせて色んな角度から見つめた。
静奈は恥ずかしそうにしながら困惑していた。
「やめとけ藍音。静奈が困ってるだろ?」
「──っと。ごめんね静奈ちゃん。でもかわいいのは事実だから、後で一緒に写メ撮ろうね!」
「は、はい……」
いつもの調子の藍音に、はぁとため息が出る。
そんなに静奈を褒めても、俺の妹はやらんぞって話だ。
「今日から新学期だねー。蓮斗はどう? 楽しみ?」
「正直に言って、ずっと休みでいい」
「ダメ人間になるお手本みたいな感想……これだから『ダメみや』は……」
「誰が『ダメみや』だよ、大声で藍音の体重を……何でもありません」
と、言いかけた所で、藍音の笑顔が怖かったので続きを言えなかった。
「……朝から熱い、二人共」
「「……っ?!」」
完全に静奈がいることを忘れ、俺達は息を詰まらせた。
「……ほら蓮斗、静奈ちゃんが嫉妬してるから構ってあげてよ〜」
「し、嫉妬なんてしてません……!」
「ほら静奈、俺と手を繋ぐか?」
「キモい……」
……なんかもう、生きる気力を無くした。
もういいわこの人生。静奈に嫌われるぐらいなら、今すぐ燃えて灰になりたい。
あ、父さんが川の向こう側で手を振ってる。この川、たいして深くないから行けそうだな、うん。
「静奈ちゃんがいいなら、私がっ!」
すると、藍音が俺の手を握ってきた。
小さくて温もりのある、何度も繋いだこの手のおかげで、何とか気力を取り戻せた。
「それじゃあ……行こっか!」
藍音がニコッ表情を浮かべ、誘導するように俺を引っ張る。
空から俺達を見下ろす太陽のように眩しい藍音の笑顔に、俺は「おう」と返し歩を進めた。
この、何の変哲もない日々。
隣に藍音がいて、静奈がいる。
勇気が俺を動かした結果、手に入った景色。
俺はこれ以上、何も望まない。
──ただ、二人の笑顔があれば、それでいい。
Fin.
────────────────────
【あとがき】
……お疲れ、三人共。
コホン……この作品を最後まで読んで頂き、ありがとうございましたm(_ _)m
本当に、感謝しかないです。
主人公が『勇気』を出して七咲藍音に喋りかけ、それから最後に告白する。
妹の静奈が『勇気』を出して過去を明かし、それから立ち直っていく。
どれも主人公一家(母は除く)が勇気を出して報われる、そんな作品でした。
少し、書きます。
鷹宮蓮斗へ。
よく小学生時代から一人で頑張ってきましたね。
これからは、あなたが物語を進めて下さい。
どんな決断をしようと、どんな日々を送ろうと──私は介入しません。
七咲藍音は良い子なので、泣かせたりしたら怒りますからね。幸せにしろよ!
七咲藍音へ。
鷹宮蓮斗と友達になってくれて、ありがとう。無自覚で距離を詰めるところとか、本当にかわい──おっと、私は彼氏ではないので言ってはいけませんね。
鷹宮蓮斗は無愛想な所もあるけど、内心はめちゃくちゃ人想いで曲がったことはしません。
これからも傍にいてやって下さい。
鷹宮静奈へ。
あなたは一番、勇気を出しました。
辛いことも悲しいことも全て──正面から向き合った。偉い!
そんなあなたには、これから良い人生が送れるよう祈っています。
……あと、ブラコンなの隠さなくてもいいんですよ? 実は物凄くお兄ちゃんが大好──おっと、誰か来たようだ。
また私の作品を手にとって貰えると嬉しいです。いつでも待っています!
──では、良い一日を!
似た者同士だと思っていたら、実は活発で元気な美少女だった たばし @tabashi
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