賽はいつだって突然に/お題:明るいお金/百合

「そこのお嬢ちゃん、賭け事は好きかい?」


 ギャンブラーたちの金と欲が渦巻く魅惑のカジノ。一端の付き人として主人の賭けを見守っていた私に、喧騒をかき分けるようにしてそんな声が飛んできた。

 私だ。私のことだ。

 直感的にそう理解し振り向けば、いかにも高級そうなスーツに全身を包ませて、煌びやかなアクセサリーをジャラジャラと鳴らす、そんな軽薄そうな赤髪の女性と目があった。


「さあ」

「んじゃ、今の仕事は好きかい?」


 なんだこいつは。主人にちょっかいをかけるのが目的か?

 訝しむ意思を隠さずにじっと見つめ返せば、ああ悪い悪いだなんてひらりと手をあげて彼女は一歩後ずさる。


「ご主人様なんかには興味ないよ。私はね、お嬢ちゃんに興味があるんだ。一目惚れって奴かな」

「ナンパなら他所をお当たりください。私は見ての通りただの付き人ですので」


 ちらりと当の主人に目をやれば、彼女はポーカーに夢中になっているようで、幸か不幸か私たちの会話は聞いていないようだった。


「ナンパ。そうだね、ナンパだ。なら、他所をあたったら尚更意味がない。……それでねお嬢ちゃん、見ての通り、私はお金がある。そう、金持ちさ。私は君を言い値で雇ってあげられる」

「……そうですか」


 引き抜き?こんな賭博場で?馬鹿馬鹿しい。

 私の考えが顔に出ていたのか、そうだとしてもなにが面白いのか、眼前の彼女はけたけたと笑い出す。


「うん。いいね。その目。気に入った。……ああそうだ、ええっと、お嬢ちゃんのご主人様はー…賭け事はお好きかな?」

「……見ての通りですよ」


 あいも変わらず五枚のカードに一喜一憂する彼女を顎でさしてやれば、満足げに金持ちは頷いた。なにがうんうんだ。意味がわからない。


「コインの裏が出たら私が君を最高の給料で雇う。コインの表が出たら、私は君を諦める。どうかな?」

「……そんな無茶なこと言うんだったら、いっそ働かなくていいからうちに置かせてくれー、とかヒモになってくれー、とか。そういうことをおっしゃられては?」

「おー、いいね。うん。それにしようか。交渉成立だね」

「、は?」


 適当に突っぱねようと口にした言葉をなぜかそのまま受け入れた彼女は、呆気に取られる私を放ってツカツカと足を進める。

 向かうは当然、いや残念なことに、私の雇い主の元で。

 そうして私の静止も待たずに、まるで最初から決められていたかのようにして、奇妙なほどに着々と話が進んでいく。主人も主人でなんで受け入れるんだ。意味がわからない。


 無慈悲に始まる、私の平穏な行く末が勝手に賭けられたコイントス。

 その結果が明るい未来に繋がるのか、薄暗い深淵への道のりとなるのか。

 兎にも角にも、私は前者に賭けることしかできそうになかった。

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