私のライオン/お題:たった一つのライオン/百合
誰が呼んだか百獣の女王。百戦百勝、不良の中の不良。まさしく、頂点に君臨せし女王。
長ランの裾を揺らし、傷だらけの顔で堂々と我が道を行く彼女の凛々しさに惚れ込む者も後を立たない。
……そんな彼女が私の恋人なんだから、本当に現実はなにが起きるかわからない。
「志保さんまた喧嘩したの……?もうしないでって私言ったよね?」
「アタシから売ったんじゃねーからノーカンだよ」
私にすら反抗的な態度を取って、手当すら施させてくれない志保さんに思わずため息が溢れる。
鋭い目線を向けられようと、威圧的な声を投げかけられようと、別に今更臆する私でもないけれど。
気高い彼女が施しを嫌うことは分かっているから、やっぱり今日も強く出られない。
それに、きっと。
「また、私のせいで変なこと言われたの?」
「……チッ…。優等生が恋人だからって絡んでくるバカが悪りぃんだよ。アンタのせいじゃねえって」
私の言葉は的を得ていたらしく、苛立ちを隠さないまま、それでも精一杯の優しい手つきで、彼女は私の頭を撫でてくれた。
ごつごつしていて、荒れ放題で、私のそれとは全く違う大好きなその掌にすり寄ってみれば、志保さんは手を引っ込めてしまった。
「ふふっ、耳、赤くなってる」
「………るせぇ…」
頬も赤くした彼女はぷいっとそっぽを向いて、そのまま黙り込んでしまう。
どうしよう、からかいすぎちゃったかな。少しばかりの不安に駆られていれば、そっぽを向いたまま、彼女は口を開いた。
「なあ、手当て、しねーの?」
「……いいの?」
「…いつでも万全の体制でいたほうがいーだろ」
もう、また喧嘩するつもりでいるじゃん。彼女の言葉に反射的に頬を膨らませれば、ちらりと私を見やった志保さんは居心地の悪そうに、うー、とか、だー、とか、言葉にならない言葉を口にする。
「……アタシのせいで、アンタにちょっかいかける奴が出てくるかもしんねーだろ。そん時にアンタを守れなかったら、その、アタシの評判に傷がつくからな」
全くもって素直じゃない、ぶっきらぼうなその声には、確かに優しさが込められていて。
百獣の女王のこんな一面を知っているのは、知れるのは。この広い世界にたった一人だけで。
私の胸をこんなにも愛おしさで満たしてくれるのも、この広い世界でたった一人だけなんだ。
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