もう優勝でいいじゃん/お題:昼の小説新人賞/百合

 新人賞の選考会議はいよいよ最終局面を迎えようとしていた。

 勤務時間を度外視して、朝早くから行なっていたはずの一連の仕事は、いつの間にか昼休みすら通過していて。

 流石に昼食くらいは摂るべきだなんていう誰かの提案に乗っかるがまま、各々が惰性のように昼食を食べに散っていく。

 自らも決して例外ではなく、仕事から解放されるわずかな時間を謳歌するべきなのだが。

 なかなかどうにもワーカーホリックなのかなんなのか、一本の小説のことが頭から離れないでいた。


 選考の終盤戦に残る一作として問題ないくらいによくできた、けれどはっきり言ってありふれた、そんな一本の小説。

 送り主の住所と名前が我が愛しの恋人のそれでなければ、絶対に気にも留めなかったであろう、そんな小説。


 新人賞というある種の神聖な場において私情を持ち込むなど言語道断である。ので、綺麗さっぱり頭から余計な情報は消し去るべきだと、私は思う。思うのだが。

 仕事で疲れ過ぎた私は、あるいは、恋人に甘すぎる私は、今すぐにでも彼女に小説新人賞私部門大賞決定書籍化決定、そんな言葉を贈呈したいとさえ考えてしまう。


「……んがぁぁあ!」


 こんなに悩まされるくらいなら、受賞者が恋人以外の誰かにさっさと確定してしまってほしいなのに。

 誉高き新人が決まるには、まだしばらく時間が足りないらしい。

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