蛇足 地獄オチ

 長命者あらため転生者、ジェイムスン視点。


 昼も夜も存在しない闇の奥底、無数のモンスターが蠢めく地下迷宮の最深部に我は座していた。


 否、座るなどという動作は我には出来ない。波うつ無数の触手の塊が我であるから。

 我が人間の姿を持っていたのは遠い昔の事。どんな姿であったのか、もう忘れてしまった。さほど見目良いものでは無かったはずだが。


「私はなぜここに居るのでしょう? 私たちは間違いなく死んだ。宇宙の塵となって消滅したはずですよね」

「わたくしも最後は意識が朦朧としていましたが、状況から見て亜光速の攻撃を受けて爆散したでしょう」


 我の傍らには翅が生えた美女という妖精めいた生き物が浮かんでいる。1Gの重力がかかっているここではあんな翅では飛べないはずだが、そんな事はお構いなしだ。

 我の言葉に答えたそいつはイモムシだ。

 イモムシのはずだ。

 醜い我の横にいるのが美しくなったコイツとは、この肉体をデザインした過去の自分を呪ってやりたい。


「普通に考えると、ここは地獄では? わたくしもジェイムスン様も地獄に落ちるには十分すぎる罪状の持ち主です」

「……今のこの姿にジェイムスンの名は相応しくありませんね」

「ハイハイ。今度はアザトースとでも名乗りますか?」

「誰が盲目白痴ですか!」


 我は触手をふるってイモムシを打ちすえようとしたが、美しい蝶は高度を上げてそれを回避した。


「その身体の機能をずいぶんと使いこなしているようですね」

「ええ。手足も普通に動かせます。動作にアシストでも入っている様な感じです。ジェイムスン様こそ、触手の扱いが上手くなりましたね」

「言われてみればそうです。大雑把な動作しか出来なかったはずなのですが」


 これは何を意味するのでしょう?

 死後の世界だから自由に動ける?

 その2つには関連性がありません。


「真面目に考察しますと、我々がいるこの世界はロープレ型の仮想世界に近い物の様です。ここは地下迷宮の最深部。ジェイムスン様はそこのラスボスの役割を担っています」

「ふむ。魔王とその側近ですね」

「これまでとあまり変わりません」


 テロ組織の幹部、よりはレベルアップしているか。

 我は触手の肉体を蠢かせ自由に動ける事を確認。そして、その外側にも意識を向ける。

 肉体だけでなくこの地下迷宮そのものも我の一部だと認識できる。限界はある様だが迷宮の構造を造り変えたり、モンスターを配置したりも可能だ。


 一方でロープレ型の華と呼べる侵入者は感知できない。

 まだ誰も入って来てはいない様だ。


「侵入者が居ないとか、やる気のない奴らですね」

「いえ『状況からロープレ世界と思われる』というだけで、本当にそういう世界が広がっているかどうかは不明です。それに、外に人が居ても、わざわざ危険な迷宮に入って来る事はないでしょう」

「宝箱でも置いておきますか?」

「そこに宝があると周知する事から始めなければなりませんね」


 ふむ。

 新しい顧客を獲得するためにはプロモーションが必要だ。

 悩ましい問題だ。

 いや、そうでもないか。

 今までと同じことをすれば良いだけだ。


「今後の方針を発表します。まず、可能な限り大量のモンスターを生産します。そして、それらを迷宮の外へと向かわせます。危険なモンスターが次々に出てくる穴が有れば、どうにかしようと考える者もいるでしょう」

「ジェイムスン様はそうまでして人を呼び込んで、何を望むのですか?」

「簡単な事です。ここがロープレ型の世界であるのなら、私が魔王であるのなら、それと対になる存在も居るはずです。私を殺せる力を持った存在、勇者が」


 勇者よ、どこかに居るのならばさっさと我を殺しに来い。

 来なければ我は世界を地獄に変える。

 我は地獄の王。

 我の座す所は常に地獄。生きている限り人々を苦しめ続ける存在だ。


「……やっぱり盲目白痴なのでは? 勇者に殺してもらえたとしても、もう一度転生させられるだけだったらどうするつもりなのでしょう?」


 イモムシが何か言っているが、それは聞こえなかったものとする。







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被造物たちの宇宙 光速のリヴァイアサン @euoni

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