エピローグ
「つまり、私はあなたの使い魔になり、蝶使いになったということですか……?」
「うん。そうだよ」
あれから数週間。意識を失った後、丸一日寝込んでいたという私は、気が付いたら冥界にいた。今、私は冥界で琥珀さんと話をしている。あの日以来、琥珀さんは依頼で忙しかったらしく、何も聞くことができなかったので、その間私は琥珀さんのアドバイスを基に、力を使う練習をしていた。
そしてようやく、琥珀さんの仕事がひと段落ついたそうなので、いろいろと疑問をぶつけていた。あの時息が苦しくなったのは、使い魔として契約を交わし、命を琥珀さんとつないでいたから、らしい。その時に蝶使いとしての力が解放され(力は元々紫音さんのもので、紫音さんが転生後の自分に、と封印した状態で残していったそうだ)、けがもすべて治ったという。それを聞いて、私は苛立っていった。
「人ではなくなったではないですか……。こうなることは望んでいなかったんですけど?」
「死にたくないって言ったじゃん。だから生かしてあげたんだよ。そのためには契約するしかなかった。仕方ないじゃないか」
「うっ……」
そう。あの状況で、しかも寿命が切れかかっている状態で死にたくないと願ったのは私だ。琥珀さんは、それを叶えてくれた。文句は言えない。
「ところで、これ、かなりの数かありますね……」
使い魔の主な仕事は、魂を回収するターゲットの資料を死神たちの長、大神様からもらってくることらしい。そこで貰いに行ったところ、十人以上はあるのではないかというくらいの大量の資料を渡された。
「あぁ、最近百鬼夜行が多発しているからね……」
「私と会った時もその話をしていましたよね?そんなに多発するようなものなのですか?」
「元々、決まった時期にしか集まっていなかった。それなのに、何年か前から時間帯や時期に関係なく集まるようになってね。こっちとしても困っているんだ。百鬼夜行が発生した場所は妖力が強くなり、人体に影響が出るから。寿命も縮まるし、下手したら死ぬ。百鬼夜行は、妖怪たちの一種の復讐なんだ。自分たちの住処を奪っていった、人間たちへのね」
「止められないのですか?」
「無理。妖怪と死神の規定でさ、互いのやることに手出し、口出しなどはしないっていうのがあるんだ。そのせいで、こっちは百鬼夜行を止められない」
琥珀さんは困ったように息を吐いた。
「妖怪たちは今もなお、人間たちが知らないところで苦しめられている。そのことを考えると、復讐したくなるのは分からなくもないけどね……」
そう言って、琥珀さんは目を伏せた。確かに、どんなことをされていたのかはわからないけれど、ずっと苦しめられたら私も復讐したくなりそう。
「まあ、こんなこと言っても仕方ないか。葵、ターゲットのもとまで行くよ」
今日から、私も琥珀さんについていき、琥珀さんの手伝いをすることになった。
「はい」
返事をして、背中の蝶の羽を広げる。初めのうちは広げることにも時間がかかっていたけれど、今は慣れたから簡単に広げられる。最近はちゃんと飛べるようになったし、簡単に蝶を呼べるようにもなった。
私が羽を広げたのを確認して、琥珀さんが人間界へと降りていく。そのあとを追って、私も降りていった。
ターゲットの家は一軒家だった。窓に腰掛け、琥珀さんは言った。
「やあ、初めまして。俺は琥珀。こっちにいるのは葵。君に死が近づいているから、迎えに来たんだ。でもその前に一つ、君の願いをかなえてあげるよ。何がいい?」
急にそんなこと言っても戸惑うだけじゃないかな、と苦笑しながら、私は夢の中で願いをかなえるこの主の後ろに控えた。
今更、何も文句は言えない。自分が望んだ結果なのだから。新しい生活、使い魔としての生活に、まだ全然慣れていないし、わからないことだらけだ。でも、私の願いをかなえてくれたこの人への恩返しになるのなら。私はこの生活を受け入れる。この人の使い魔として、生き続ける。
契約が解消されるその日まで……。
願いが繋ぐ二つの命 逸日《いつひ》 @itsuhi-y
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