コント「異世界ギルド受付の日常」
ひなた華月
コント「異世界ギルド受付の日常」
剣と魔法が存在する世界、アーガルド・ヘルム。
そこでは、100年間に及ぶ人類と魔族が戦いを繰り広げ、人類は衰退の一途を辿っていた。
そして、今日もまた、帝国都市ギムレットにあるギルドの受付では、新たな戦士が誕生しようとしていた。
「はい、お待たせしました。私、本日のギルド受付を担当させて頂くガルバと申します。えーと、確かお名前は……」
「ギートっす。うっすうっす」
「はい、ギートさんですね。本日は、こちらのギルドでパーティ編成をご希望ということですが……」
「そうっすねー。やっと冒険者になれたんっすよ」
「あー、おめでとうございます。結構お若いのに凄いっすねー」
「あー、マジっすか? あざっす」
「それで、パーティ編成なんですけど……何か条件とかってありますか?」
「いやー、特にないんすっけど、あったほうがいいっすか?」
「いえ、そんなことはございませんよ。ですが、中には種族や年齢をご指定してくる方もいますね」
「へぇー、そうなんすっか。えっ? ちなみに、それってなんでなんっすか?」
「あー、やっぱり年齢が同じくらいじゃないと、パーティで行動するとき会話が途切れちゃって気まずい空気になるっていうのがありますねー」
「あーそれキツイっすね」
「あと、種族なんですが、こちらはパーティ全体のパラメーターを意識して選ぶ方もいるんです。主にエルフやケットシーの方々が人間の剣士を希望されることが多いですよ」
「ええ!? 人間の剣士って俺じゃないっすか。へぇー、エルフとケットシーとパーティ組めるかもしれないんっすね」
「そうですねー。あっ、ちなみに転職などのご予定は?」
「いや、親父の農家は別に継ぐつもりは……」
「あっ、違います違います。職業(ジョブ)のことです」
「あっ、そっちっすかー、もうややこしいからいっつも間違えるんっすよー」
「お気持ちお察しします」
「で、転職ってことっすよね? それなんですけど、しばらくは剣士でやってくつもりっす。まぁ、将来は魔法剣士も考えてますねー」
「なるほど、なるほど……。そうですね、でしたらギートさんの場合です、と。王立学院の卒業証明書も事前に提出されてますし……結構、希望者が集まると思いますよ」
「まじっすか。いやぁ、楽しみっすね」
「あの、他に何か資格や免許みたいなものはお持ちですか?」
「そうっすねー。ルーン文字3級とか持ってますけど」
「3級ですか……」
「やっぱ駄目っすよねー」
「そうですねー。2級からじゃないと少々厳しいかと……」
「ですよねー。あとは……ワイバーン免許持ってますけど……」
「ええっ!? それいいじゃないですか。かなり武器になりますよ」
「え、え? そうなんっすか?」
「はい、今って、馬車や飛行船の移動が多いんですけど、やっぱり小回りの利くワイバーンで移動したいって人もウチのギルドは多いんですよ」
「そうなんっすか。いやぁ、母親から学生の間にワイバーンの免許は取っとけって言われたんですけど、ホントに役立つんですね」
「お母さん、ファインプレーですよ」
「いやぁ、さすがにローン組んでワイバーンを購入することはしてないんですけどね」
「若者のワイバーン離れっていうくらいですからねー。でも、ウチもレンタワイバーンをやってますし、免許あるだけ十分ですよ」
「へぇー、そうなんっすか」
「では、ギートさんのプロフィールはこれくらいですかね。ちなみになんですけど、逆に現在パーティメンバーを募集している人たちも拝見しておきますか?」
「あー、そうですね。参考までに、見ておきたいっす」
「でしたら、今だと……こういう方々がメンバーを募集してますよ」
「はいはいはいはい……。あー、こういう感じっすかー。やっぱ僧侶なんかが人気なんですね」
「ですねー。回復魔法が使える方がいると、クエストに行くのにも安心ですから」
「えっ? あれ、ちょっと待ってください。この人たち、男性の剣士募集ってありますけど、パーティメンバー、全員女性ですよね?」
「はい、そうですね」
「えっ? 男が入ってくるのって嫌じゃないんっすか?」
「あー、これなんですけど、逆に女性だけだと心細いっていうのがあるんですよー。ほら、宝箱なんか他のパーティとどっちが先に見つけたって揉めたりすることも多いですから、そういうときに強い男性がいてくれると助かるみたいで」
「へぇー! 逆にっすか?」
「逆に、ですね」
「あー、なんかいいっすねー。いや、下心とかじゃないっすよ」
「はい、承知しております。良かったら、こちらから面談のお話とかはできますよ?」
「マジっすか!? ……お願いしてもいいっすか?」
「畏まりました。では、こちらの方々との面談と、ギートさん自身のパーティ募集も同時に登録しておきますね」
「あざまっす。じゃあ、宜しくお願いします」
「はい、またお会いできることを、楽しみにしております」
その後、意気揚々とギルドの受付を立ち去るギートに慇懃な態度で頭を下げるガルバ。
そして、賑やかな街中へ出て行くと、ギートは一人、通行人たちには聞こえない声で、ぼそりと呟く。
「……っしゃ。親父から貰った祝い金で、新しい防具買い揃えておこっと」
こうして、今日も又、魔物たちと戦う勇敢な戦士たちが誕生するのだった。
END
コント「異世界ギルド受付の日常」 ひなた華月 @hinakadu
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