元ブラコン妹はランクアップしたい! ついでに逃亡したい。


ふんふんふーん




鼻歌を歌いながら、街角をすり抜けてゆきます。




気分は上々です。ここ最近の依頼が上手くいったおかげで、次の依頼をこなせば、十階級に上がれるのです。




半年で三階級上がれば冒険者としては出世頭と言っていいと思います。やはり、この仕事は私にとって天職です!!










さて、良いことが続けば今度は悪いことが起きるのがこの世の常で、この時もやはり一筋縄ではいかないのです。








「受付の美人なお姉さん!!依頼、終わりました」




「あら、早かったわね。さすが期待のルーキー!!これで、次のギルド指定依頼を熟せれば、十階級にランクアップね!!」




美人なお姉さんが自分の事のように喜んでくれる様は眼福だわー、とどこか下世話なことを考えながら、私は半年前の初心者クエストを思い出していました。










初心者クエストで、人間狩りが行われようとしていたのは哀しいかな私の生家の領地でのこと、あの時は嫌な予感がしてお兄様に助けていただいたんでした。




上手くその場は乗り切れましたけど、そこであの竜人と出会ってしまったのです。




ほんっと、自分が求婚すれば断らないだろうと自信満々に声をかけてきたあの男、いい迷惑です。せっかく暫く領地でランク上げしてから国をまわろうとしていた予定が台無しではないですか!!




私は自分の結婚に全く興味がなかったので竜人については誰もが知っているような基本的な知識しか知りませんが、曰く、竜人は番を見つけたら番しか愛さない。曰く、竜人は独自に国家を持っており、豊富な資源を持つため、お金持ちである。




曰く、竜人は自身の番を真綿でくるむように愛するetc.




貴族令嬢だった頃の友人方が言うには『理想の塊』だそうですが……私にはそんな窮屈な愛され方は地雷だと思ったものです。




それを何をとち狂ったのか、お兄様の友人とやらの竜人さんは私を番だと言い出しました。私の友達に求婚してくれればよいものを。




そもそも、私は可愛い方が好きなのです。あのような百戦錬磨の風格の方はごめんこうむりたいですね。過去の恋人に刺されそうです。




あとから聞いたのですが、竜人は番を見つけるまでは、まあ、ルックスもお金もある方々なので非常に遊んでいる方が多いそうです。そういったあたりも好みではありませんね。










ーーいらない事を思い出してしまいました。




それもこれもお兄様が手紙で、『一度くらい話してやれよ』なんて送ってくるからです。さて、何で買収されたのかしら……。竜人国は最上品質の宝飾品の産地なので、お姉さまに贈る宝飾品あたりでしょうか。




折を見て、お姉さまに釘をさしていただかないと。








そんな事をつらつらと考えていた罰が当たったのでしょうか。




昇級の為の依頼を受け、詳しい説明を受ける為、指定された村の集会所に入った時、あの竜人がそこにいたのです。




「「あっ」」




一瞬、依頼の事も忘れ、脱兎のごとく逃げ出そうといたしましたが、距離が近かったため、すぐに捕まってしまいました。まあ、依頼があるのでどちらにせよ逃げ出す訳にはいかなかったのですが……。




「ーーようやく見つけた」




竜人さんは幾分か憔悴した様子でした。




「とりあえず、離してください」




「でも、逃げるだろう?」




「……少なくとも、依頼はきちんとこなします」




「ーーわかった、離すから、お願いだから今夜ちゃんと話す時間が欲しい」




「……夕食の時間でしたら、かまいません」




「ありがとう」




嫌でしたが、ここでもめるのも時間の無駄ですし、いい加減けりをつけなければいけません。




まあ、あのお兄様のご友人とのことなので、悪い方ではないのでしょうし。




そこから数人が集まり、今回の依頼の説明を受けました。










「ゴブリン集落の掃討か」




「はい、上位冒険者の方にはゴブリンジェネラルを、下位の方にはサポートと連れ去られた人々の救出を、そのほかの方はゴブリン村の掃討をお願いいたします」




弱弱しい声ですがるように村長は説明し頭を下げます。




なるほど、十階級に上がるのが難しいと噂されている理由がなんとなく理解できました。




「吐き気止めをいくつか用意しないとな……」




静かに瞑目し、そっと呟きます。




きっと今回の依頼はあまり気持ちの良い終わり方をしないでしょう。ですが、冒険者の仕事とは、清濁併せ持つものです。




一流の冒険者になるために頑張ります!!










気合を入れている私の横顔を竜人さんがじっと見つめていることに、この時は気が付きませんでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

シスコン兄のブラコン妹に転生しましたが、共依存は遠慮します。 @tukishirogekka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ