元ブラコン妹と初心者クエスト その他逃亡劇
「いい天気ねー」
そう呟きながら、私は曇天の空を見上げました。
空は、真っ白にそまり、今にも泣きだしそうです。
「どこがよ!!」
隣を歩くのは、どこか気の強そうな女の子。多分、年下でしょう。冒険者は十二歳から登録できますから。
ただ、十二歳からだと、見習いを経ないといけなくなりますが。
「もぉ、これからゴブリン討伐にいくのに、気が緩みすぎよ」
その隣の、いかにも魔法使いなローブを着た青い髪の女の子が、諫めるように言いました。
「ばかねぇ、ゴブリンなんてそこまで強くない魔物に、これだけの準中級冒険者が付いているのよ?
負けるわけないじゃない」
気の強そうな子は馬鹿にしたように言います。
「そ、そうよね…」
そうだったらいいな…と思いつつ、私は意識を周囲に向けました。
準中級冒険者、とは階級でいう十~八階級の人。中堅には届かないが、そこそこ強い人たちのことです。
そんな、そこそこ需要のありそうな人たちが、このクエストに六人も参加しているのです。ゴブリンは
初心者モンスターと呼ばれるモンスター。町の人たちにとって脅威でも、ある程度訓練をした冒険者の敵
ではありません。
なのに、この人数。
しかも、新人は女子十五名、男子八名もいるのです。明らかにオーバーキルです。
男女の比率もおかしいですが…基本的に、冒険者は男性のほうが圧倒的に多いので。
私の予感が外れることを願います。
つらつら考えながら、二時間ほど歩くと、ようやく依頼のある農村にたどり着きました。
新人教育のリーダーが声を掛けます。
「諸君、では、依頼の始まりだ。まずは、女子二チーム、男子一チームで、先に農村の探索をしてもらう。
何かあったら、手元の発煙筒を使え。俺たちはここで待機し、発煙筒の煙を見次第、救助に向かう。
では、解散!!」
リーダーの言葉により、私たちは三手に分かれて村に侵入した。
「あれ?誰もいない…」
村に入った途端、異変に気が付いた。村の家や道に人っ子一人いないのだ。
ゴブリンに襲われたあとか!と慌てて私たちは家々を除いて回るが、やはり誰もいない。しかも、その痕跡
すらない。
「…発煙筒で、応援を呼びましょう。この状況は新人には荷が重いわ」
誰かがそういったことに全員が賛同して、発煙筒をつけようと準備する。
しばらくして、保護者の冒険者達が二人やってきた。
「どうしたんだ?お前ら、元気そうじゃねえか」
けがもしてないのに呼ばれたことに怪訝な顔をしながらこちらに寄ってくる。
「い、いえ、あの。人の気配が全くしないのです。それどころか、魔物の気配もありません」
あの気の強そうな子が率先して報告する。青髪の子も後ろでうなずいていた。
彼らは私たちににじり寄ると、ニタリと笑った。
「そうだろうな…」
その瞬間、意識が暗転した。
村の広間で目が覚めた時には、魔法具でぐるぐる巻きに拘束され、巨大な魔法陣の上にいた。
魔法陣の外を囲むように、準中級冒険者たちが取り巻いている。
「これはいったいどういうことですか!?」
新人の黒髪少年君が怒鳴った。
「私たちを騙したんですか?」
あの気の強い子も叫んでいる。
青髪の子は泣きだしていた。
「人聞きの悪い奴らだな。気が付くことが試験だったんだよ。よーするに、お前ら全員不合格だ。
どうせお前らは生き残れないから、おまえらの命を有効活用してやろうと思ってな」
リーダーがニタニタと告げる。
どおりで、女の子が多いはずだ。奴隷にするにあたって、需要が見込める。
「この下種が!!」
怒りに任せて叫んだら、後ろから受付のお兄さんが出てきた。目の中が死んでいてひどく
気持ち悪い。
そのまま、こちらにきて、腹をけりつけられた。
「騙されるほうが悪いんだよ」
吐き捨てるように言い、関係のない周りの者たちも蹴り飛ばしたり踏みつけたりして、楽しんでいた。
ぴよーー!!
間の抜けた鳥の鳴き声が響いた。
「ねえ、君、だれの妹に手を出しているのかな?」
聞きなれた声なのに、ひどく冷たい響きだ。
「拘束せよ、氷の茨。」
そう、兄がつぶやくと、受付のお兄さんの足元から氷のつる薔薇が召喚され、彼を拘束した。
「ぐあーっ!!」
その声と同時に、私は自身に魔法を展開し、拘束をとく。
「ば、ばかな!その魔法具は魔法を使えなくするための…」
「おあいにく様ですね。魔力量が膨大な私にとって、この程度の魔法具は意味ありません」
そう告げると、てじかなところから、新人たちを救出し始めた。
しばらくして、全員が拘束されると、リーダーと受付のお兄さんは茫然とつぶやいた。
「なぜ、邪魔をするのです。侯爵家は黙認していたはずだ。今までさんざん便宜を図ってきたのに
なぜ…」
すがるように兄を見つめる彼らに、兄は冷たい視線をよこした。
「先代たちはすでに更迭された。今頃監獄のなかだな。もう当主は俺だ。俺はお前たちと仲良くするつもりは
毛頭ない」
「そ、そんな……」
ガクリと膝を折るリーダー。その瞬間、受付のお兄さんが憎悪の瞳を浮かべて、ナイフを口にくわえ、やけくそ気味に
近くの黒髪の少年に突っ込んでいった。
「お前らのせいだ!!お前をみちづれに!」
「あぶない!!」
間一髪で、少年をかばい、私は受付のお兄さんを地にたたき伏した。
「ふう、大丈夫?」
黒髪の少年に尋ねると、いまだ固まったままコクコクとうなずいた。
「いやー、助かったよ」
兄がにこやかにこちらに寄ってくる。
「お兄様、気を抜きすぎですわ」
「おや?庶民言葉になれたと思ったけど、まだまだだね。…そんなに怒らないでよ。もう気はぬかないから。
に、しても両親、ろくなことしないね。領地の立て直し、大変そうだ」
兄は渋い顔で、あたりを見渡した。
先日、レターフクロウを通して、兄に送った書状には、過去の新人教育についての調査をお願いしていた。
兄が調査したところ、真っ黒も真っ黒。人身売買が行われていたのだ。
両親が主導はしていなかったものの、見過ごすかわりに、人、まあ主に愛玩奴隷だが、を融通してもらっていた。
それが、先代の間、少なくとも十八年は行われており、被害者はどのくらいになるのかわからない。
ちなみに、我が国は人身売買を禁止している。
ということで、領地に蟄居予定の両親は、行き先を変えて監獄に行ったというわけだ。
「これから、できる限り、被害者を探し出していかなきゃいけない。不謹慎だけど、頭が痛いよ…」
「お兄様、珍しく弱音をはいていますね。微力ながらお手伝いいたしましょう。これから、冒険者と
して各国を旅いたしますので、情報が入り次第、お伝えしますね」
「よろしくね。」
兄は微笑むと、昔のように私の頭をなでた。
兄と団欒していると、横からぬっと黒い影が差した。
「貴殿が、私の弟を救ってくれたのか。恩に着る」
バカでかい男の横には黒髪の男の子がちょこんと立っていた。
「おい、びっくりするだろう。この男は私の学友で、ラグーン出身の竜人だ。この男も
冒険者をしている」
「兄がお世話になっております。先ほどの件は冒険者として必要なことをしたまで。お気になさらず」
そういって、彼を見上げると、不意に目と目があった。そのまま彼はどこか唖然としてこちらをジッと
見つめてくる。
様子がおかしいので、見上げたまま小首をかしげると、彼はなぜが真っ赤になった。
「…妹君。その、俺と結婚してもらえないだろうか?どうやら俺の番はあなたらしい。一生大事にすると
誓う。あと冒険者ランクも四で今回のことで、三に上がるだろう。高給取りだ。どうだろうか?」
ぐっと顔を近づけながら迫ってくる竜人に、困り果てて兄を見るが、兄はニヤニヤしながらこちらを見ていた。
どうやら兄は静観する構えらしい。きっとお姉さまとのことをいろいろからかったのを根に持っているに違いない。
大人げない!!
兄をにらみつけるが、兄はますますニタニタ笑う。
どうやら、この竜人は兄に認められるほどには良い相手ではあるらしい。
「妹君、兄君ばかり見ていられては嫉妬してしまう。どうか、私をその瞳に映してはもらえないだろうか?」
…竜人は総じて押しが強い。たった一人の伴侶を持ち、生涯大事にする種族なので、結婚相手として理想の
相手だといわれている。
が、私はごめんである。少なくとも今はまだ。
竜人は独占欲が強く、過保護だ。冒険者をしたいという私の願いはかなわないであろう。よしんばかなったとして
も、どこに行くにもついて回り、危ないことをするたび止められ、自分が引き受けるといわれる生活は嫌だ。
もう、受けてもらった気の竜人に向かって私は大きく息を吸った。
「求婚お断りします、だいたい真綿に包むような生活はむいていません、ほかをあたってください、というか、人の意思を
尊重しない過保護さは私にはいりません、さようなら」
ここまで、一気にいうと、断られて固まった彼をおいて、エルダーファルコンという巨大なカラフルな鷹を呼び出し、背に飛び乗った。
「じゃあね、お兄様。お姉さまによろしく!また連絡する」
そういって一目散に王都のほうへ羽ばたいていった。
「くくく、ああ、またな……。おい、いつまで呆けているつもりだ?」
「あ、いや、すまない。竜人の求婚を断る女がいると思っていなくてな…」
がっくり肩を落とした学友をぽんぽんとたたいた。
「妹は規格外でな…。多分、竜人の本能に従った愛し方は受け入れんぞ。冒険者が天職みたいなやつだからな」
「そ、そうなのか…。だが、やはり番には安全なところで過ごしてほしい」
「本人の意思を無視してか?」
「それは…」
竜人は、どうしたらよいかわからなくなったが、とりあえず、今のままでは永遠に結婚できないんだと悟った。
「よし!!」
一つ気合を入れると、竜人は背中から翼を出して飛び上がった。目指すは彼女の向かった方向だ。
「どうするんだ?」
「とりあえず、もう一度話がしたい。妹君を追いかけようとおもう」
「そうか…、ま、やってみたら?俺は手助けはせんがな」
「ああ」
そういって竜人はできるだけ早いスピードで彼女を追いかけていったのだった。
「まあ、しばらくは良い見ものだ。見物させてもらおう。」
兄はニヤリと笑って、捕まえたやつらを連れて、領都のほうへ引き返していった。
その後、しばらく妹はつかまらなかったが、とある依頼で偶然一緒になり、また追いかけらるのはまだ、先の話。
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