お試し

@coffee_breaker

深夜テンション

穏やかな風が頬を撫でる。街明かりの消えた、虎の刻。郊外に人影はなく、ただ空気と僕がいるだけだ。真夜中の外出は心地が良い。自分を囲む空気もまた、孤独を紛らすために自分に依存しているかのようだ。ふー、と、ため息。僕もまた、空気に溶け込む。真っ黒な街のシルエットが紺青の空に沈むのを眺めながら、世界と共に呼吸する。ここは暖かい。


しかし、芝生に寝そべって空を仰ぐと、空気は一変する。目の前に広がるのは、日差しのない、絶対零度の紺青の海。否応もなく視線は海に吸い込まれる。目に降り注ぐのは星々の白く眩い光。視覚は五感を支配して、周りの空気は刹那に冷たくなる。時は止まり世界は呼吸をとめる。


長らく海に魅了され、あれからどれだけたったのか、紺青の海は、次第に東から淡く青色の階調を作る。やがて淡い青は朱に変わる。凍る世界が溶けてゆく。気づけば水平線に白い一筋の光。世界は再び呼吸を始める。



 また、寝れなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

お試し @coffee_breaker

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ