素直

@hikarifujiwara

素直

タカシ先輩は、いつも明るくしてくれた。

テニスサークルのOB会の2次会の後、終電を逃しタカシ先輩の家に行ってから、よく2人で会うようになった。告白はされていない。


有名私立大学卒の私。傷つきたくないから、タカシ先輩にも、「私のことどう思っている?」とは聞けないし、友達にも、母親にも、サークルの先輩、としか言っていない。自分から告白するだなんて、まずない。自分から告白するだなんて、そんなにこの私がそんなに下手に出ないといけないことなんてあるのかしら。


ミスコンにも出るほどで、容姿にも自信があった私は、ギャラ飲みやラウンジ嬢、パパ活をして大金を稼いでいた。上場企業の役員の年収は軽く超えていた。それでも風俗嬢やキャバ嬢とは違うという意識は明確にあった。そんなに落ちぶれた人間ではないと。


華やかな南麻布や六本木の雰囲気に飲まれていくうちに、タカシ先輩のことも知らぬ間に値踏みするようになってしまったし、行く先も値段でとやかく言うようになってしまった。本当は一緒に行ければ、どこでもいいのに。

「年収2,000万円以上ある有名企業勤務じゃないと嫌!」とか「客単価が5,000円以下のお店なんて入りたくない!」毒を吐き散らかしていた。


タカシ先輩は、学生の時から明るく一緒にいて楽しい人だったが、年収や客単価の話だけには無反応だった。


バレンタインには、チョコの吟味からして手作りのものをタカシ先輩だけのために作った。

「ギリに決まってるじゃん。余ったから、あげるよ」


と毎年のようにあげていた。ハートの名前入りのチョコが余ることなんてない。どれだけタカシがいっぱいいると思われているのやら。



ある日通った東京駅の前の通り。何組ものドレス姿の新郎新婦がカメラクルーを連れ撮影をしている。


タカシ先輩の家に行ったあの日から2年。付き合っていると思っている日から2年、30歳まであと2年の私。そろそろ「結婚」の二文字が頭をちらついている。

タカシ先輩に目でドレスを指さした。

「あら、結婚式だね」

そのままタカシ先輩を見つめた?

「ん?まあ結婚は無いかな~」


タカシ先輩はつづけた。

「値踏みしたりしないで、ずっと言ってるのに。どうしちゃったの?まあ、たまに出かけるとかなら全然いいんだけどね」


タカシ先輩にとって、私は元から結婚対象ではなかったようだ。正確には、港区女子化してから私のことが嫌になったのかもしれない。


「私、結婚します」

タカシ先輩にLINEを送った。そう言えば、タカシ先輩の気を引けると思った。ドラマみたいに結婚式のバージンロードに殴りこみに来てくれるかもしれない。ドラマの見すぎかな。



「え?マジで?」と最初は驚いていたが、本当であることを知ると「おめでとう!幸せにね」「綺麗だし、良いお嫁さんになるよ!」と素直にドストレートの祝福をしてくれた。


私が欲しい言葉は全く出てこなかった。


一回で良いから酔っぱらってでも何でもいいから「タカシ先輩が好き!スペックとか年収とかどうでもいい!一緒にいれればそれでいい!」と言えていれば。


でも言えなかった。「まあタカシ先輩とも会ってあげるよ」と言ってしまっていた。本当は連絡があっただけで舞い上がっていたのに。


結婚するだなんて嘘だった。でも、後には引けない。このために好きでもない、おっさんでもない、同年代の学歴も自分より劣る、収入も劣る、見た目はホストっぽい男を彼氏にした。学生の時なら連絡先も教えないようなやつだ。世の中的にはヒモというのかもしれない。



結局前撮りの写真をタカシ先輩に送った後、別居して、先日ヒモとは離婚した。


港区の魔力に取りつかれ、刹那的な華やかな生活と若くして大金をつかんだ。同時に幸せな生活と、円満な生活を失ってしまった。


今度タカシ先輩のような人が現れたら、「あなたが好き、一緒にいられればそれでいい!」そう言えるように素直に生きていきたいな。もう無理かもしれないけど。

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