俺の歌が下手なのは、口の中に口内炎があるからなんだ!

ポンポン帝国

俺の歌が下手なのは、口の中に口内炎があるからなんだ!

『音痴やめろー!』


『こんなに絶望を呼ぶ歌い手はお前だけだ』


『耳が死ぬ』



 今日もコメントには罵詈雑言が溢れている。こんな文句の為にスパチャまでしやがって。


 おっと、今俺がやっているのはライブ配信だ。こんな文句ばかり溢れてるライブ配信にリスナーがそれなりにいるのは、俺がテレビでそこそこ活躍しているお笑い芸人だから。幸か不幸か俺はお笑い芸人として飯を食べていける程度には収入を得ている。だからこそ、今までやりたかった歌の道を進む第一歩として日々、ライブ配信を行ってるって訳だ。


「うるさい! 今日は口内炎が出来てるからうまく声が出せないんだよ。俺の声ってピュアで、繊細だから!!」



『どのへんがピュア?』


『そのレベルじゃ口内炎は関係ない』



「あーあー! 聴こえない!!」


 ちなみに、口内炎が出来てるのはほんとだぞ? どうしてもテレビの仕事って時間が不定期だからな。飲みにも行くし、不摂生な生活をしている自覚はある。改善しなきゃいけねぇんだけど中々な……。それにしてもリスナーども、俺ってボケ担当だから余計な事ばっか言ってきやがる。それに応えてしまう自分の才能が恐ろしい。だが、今、俺の才能を発揮しなきゃいけないのはお笑いじゃない、歌だ!


「よし、それじゃ、歌のリクエストだ! どんどんリクエストしてくれっ」



『『『『ジャ〇アンのリサイタル』』』』



「よしきた!!」


「ボーーエーーーーー!!」



『神が舞い降りた。いや落ちた』


『シンクロ率百パーセント』


『安定のジャ〇アンはうまいな。あれ、下手なのか?』



 よし、歌い切った。


「あぁすっきりしたぜ、って俺が求めてるのは違うわ! 俺は普通に歌うんだ!!」


 こいつらは俺をおちょくる事しか考えてないな。俺の才能に嫉妬してるんだ、全く。


「おっと、いつの間にかこんな時間か。それじゃあ今日は終わりだ。また見に来てくれよな。次回こそ、本気出す!!」


 こうして今日もリスナーに文句を言われながら配信を終えるのだった。









「今日はな、大事な話がある……」



『ま、まさか……?』


『ま、マッカーサー?』


『おい、ちゃんと話を聞いてやれ。やっと歌うのやめるの?』


『やっととか草』



「今日もお前ら言いたい放題だな。だが、俺の大事な話を聞けば何も言い返せなくなるぞ」


 どうせいさめても黙るようなリスナーじゃない。ここはさっさと発表して黙らせるとしよう。


「実は、口内炎が治った」



『へぇー』


『へぇー』


『プゥ~』


『それおならや』


『ネタじゃなかったの?』



「ネタじゃねぇし! 俺ってさ、人気お笑い芸人じゃん? そうなると朝から晩まで忙しいからどうしても不摂生な生活しちまうんだ。プロの歌い手としては失格なんだけどよ、それでも俺、色々病院行ったりしてようやく口内炎が治ったんだわ」



『どこをツッコめばいいんだ?』


『プロの……?』


『てかそれって不摂生が原因じゃなくて何か病気じゃ?』


『そうだ、ばっちゃがそう言ってたわ』


『ホントに口内炎のせいにしてたのか……』



 ふ、みんなショックを受けてるようだな。ここから俺の時代が――――。



『で、これで下手だったらやめるんだよね?』


『いいね、それ』


『さーんせーい』



「へ?」



『へ? じゃないよ。今まで言い訳にしてた口内炎が治ったんだから』


『やっとお笑いに集中するんだ』


『もう言い訳出来ないしな』



「お、おい。勝手に話を進めるな。な、何でやめなきゃいけねぇんだ」


 それはリスキーすぎるぜ、おい。



『あ、逃げた』


『自信ないのか、それじゃあ仕方ないな』


『所詮はその程度』



「言いたい事ばかり言いやがって……! よし、そこまで言うならやってやろうじゃねぇか!! ギャフンと言わせてやる!!」


 耳の穴をかっぽじって聞きやがれ!!









「ぎゃふん」



『草』


『草』


『草』



 やっぱ音痴だった。いや、わかってたんだけどな? あれだけリスナーに言われてれば俺が歌がうまいか、下手なんてとっくに知ってたけどさ。夢みたいじゃん?


「えっと、俺は今日を以って歌い手を引退する。今まで付き合ってくれてありがとよ」


 悔しくて涙が出てくる。くそぉ……。



『何でそんなに歌い手になりたいの?』


『確かに。芸人として成功してるし、歌う必要なくね?』



「お前らの疑問はよくわかる。けど、ここで歌い手として成功するのは大事な事なんだ。お前らにわかるか?」



『わからん』


『そんなに深い事情があるのか?』


『歌わないと死ぬとか?』



「実はな、歌がうまいやつってモテるだろ? 俺はモテたいんだ」



『は?』


『は?』


『は〇寿司!』


『はい、解散』



「おい、待て、待て! 勝手に話を終わらせるな」



『てか、芸人って十分モテね?』


『確かに』


『たし蟹』



「芸人でモテるやつってのは、話がうまいやつなんだよ。例えば俺の相方なんかお前らも知ってるだろ? ちゃっかり女子アナと結婚しやがって、死んじまえっと、話が逸れたな。そして分析するとよ、他の芸人仲間で結婚してるやつらは大体が、話がうまいんだわ。だけど、俺は違う。バカだから話が下手だからよ。そしたら思い浮かんだんだ。歌手ってモテるんじゃね? ってよ」



『草が森になりそう』


『こんなにピュア(笑)な人ははじめてだー』


『んで結局、音痴がバレた訳だけどどうするの?』



 どうするかぁ……。ぶっちゃけ何も思い浮かばねぇなぁ。今まで通り、合コンとかで何とかやってくしかねぇのか? けど俺、合コンとか苦手なんだよな。結局は他のやつに持ってかれちまうしよ。


 静寂に包みこまれていたこの空間で(コメントは溢れているが)一層目立つコメントが飛び出してきた。そう、赤スパだ。



『私、あなたの事が好きです』


『勇者現る』


『おぉ、女神よ。迷えるジャ〇アンを救いたまえ』



「うるせえ! あ、あ、お、俺の事が好きってホントか? いや、ですか?」



『ジャ〇アンが敬語を使ってるぞ』


『しー! 黙ってあげて』



『私は、あなたの歌で元気を出してもらったんです。確かにみんなから見れば下手かもしれない。けど、私にとってあなたの歌はどんな歌より素敵でした』



『ひゅーひゅー!』


『これは最後のチャンスだ』


『ジャ〇アン理論が合ってただと……!?』



 今度は違う意味で涙が溢れてくる。そうか、俺のやってきた事って無駄じゃなかったんだな。


「こ、こんな下手な歌が素敵だなんて言ってもらえたのは、はっきり言って嬉しい。だが、俺なんかでいいのか……?」


 いつの間にかジャ〇アンなんてあだ名がついてるような歌い手なんだぞ……?



『あなたがいいんです』



「結婚してください」



『えんだああああああああ』


『おめでとおおおおおおお』


『あれ、何で画面が滲んで見えないんだ』


『俺もだ、同志よ』



 そして気になる答えは……。



『あ、そこまではちょっと……』



『うわあああああああああ』


『今日は飲もう! 俺も付き合うよ!!』



 崩れ落ちてしまった俺は画面から消えてしまった。そしてひとしきり凹んだ後、立ち上がって画面を確認した。きっとさっきのは俺の読み間違えだ。そうに違いない。


 ……読み間違えじゃなかった。俺、もて遊ばれてたのか。


ん? しっかり続きを読め? リスナーのコメントの指示に従って詠み進めるとそこにはまだコメントが続いていた。



『いきなり結婚は準備ができてないのでお友達からお願いします』



「よっしゃああああああああ!!!!」



『いいな、こういうの』


『俺もこんな恋愛したい』


 そして俺はまた画面から消えるのだった。





 その後、俺達はリスナーにからかわれながらも無事に結婚。それもライブ配信をした。そしてそこでも勿論ジャ〇アンのリサイタルも開いたのだが、そのライブ配信をとある映画会社のお偉いさんの目にとまり、数多くのホラーの叫び音を担当する事になった。ホント世の中何が起こるかわからない。俺の歌声ってホラーの叫び声なのか? ってツッコミたいところだが、そんな事は気にしない。


 うまかろうか下手だろうが関係ねぇ。だってもうお嫁さんがいるんだからな、へへ。

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