第2話

「さて、今のお機嫌は?」

「ざいあぐだよ、グゾッダレ」


いちいち俺様の神経を逆撫でしてくる物言いをしてくるクソ野郎……それがこのヤブ医者だ。


昔からの馴染みでもあり、世界でも有名なの外科医。こいつが発表する論文の全てがこの世界における医療分野の進歩を促している……らしい。


ついでに言うと金持ちで美形、女性向け雑誌のグラビアを飾れば飛ぶように売れるとも聞いた。


ま、この俺様と肩を並べられる稀有な存在であることからしてそれくらいやってくれなきゃ困る……そんなクソ野郎だ。


話を少し戻そう。


俺様は目覚めた時、白1色の壁が目の前に広がっていた。俺様は、病院のベッドの上だった。


正直自分がなんでこんなことになってるのか検討もつかねぇし、そもそも指1本どころか首すら満足に動かせないということだけは把握した俺様は天才的な頭脳をフル活用して考えた。


その結果、真っ白な天井を見ていても状況が掴めない……ということは分かった。どうしたものかと考えていたところにタイミングよく見回りに来たナースの姉ちゃんが来たらしい。必死に顔を横に向けながら



「お"い"」



と(俺様にしては)優しく声をかけただけなのにナースの姉ちゃんはまるで幽霊でも見たかのような甲高い悲鳴を上げて走って逃げやがった。職務放棄だな。


ともかく自分の身体の状態とナースの姉ちゃんが逃げたことから俺様が目覚めたことに大喜びしたに違いない、とアタリをつけた訳だが……その直後にヤブ医者が慌てた顔して走ってきたって訳だ。


しかしヤブ医者の慌てたところなんて初めて見たかも知れねーわマジで。


そして、冒頭の会話に戻るってこった。オーケイ?



「だろうな。全身包帯まみれで1週間生死の境をさ迷っていた訳だし……先ずは、悪態をつけるくらいには回復したようで何よりだよ」


「…………あ"ぁ"?1週間?」


心底安堵した様子で訳の分からねーことを言いやがったヤブ医者に俺様は率直な疑問をぶつけることにした。


だって、お前、1週間生死の境をさ迷っていたって……はぁ?



「…………そうだな、この病室にはテレビも新聞もないからな……ほれ、6日前の新聞だ。一面だけでいいから読んどけ」


ヘラヘラしながら俺様を馬鹿にするのが大好きなクソ野郎にしては回りくどい言い方だ……そう思いながらも俺様自身、言葉にするのを躊躇ってしまったんだわ。


今にして思えば、俺様もこの時に感じ取っていたのかもしれねぇ。


ポッカリ空いた、心の穴を。



『首都中心部、隣国の爆撃機により甚大な被害』


『死者、行方不明者多数』


『首都防衛隊、反撃の狼煙』








「…………んだよ、これ」


我が目を疑うって、言葉を失うって、こーゆーことを言うんだろうなぁ。


俺様のいるこの国は、隣国と戦争をしている。


俺様が生まれる前からだ。確か、半世紀以上前からだ。


だけど、あくまで戦場になっているのは国と国の境目、国境線。


国境線から最も離れた首都には、この国が戦争しているって実感を持てないくらいに平和だった。


だから、戦争なんてどこか遠い……俺様とは無縁の世界だと、思ってた。



「ここが病室ってことは、理解してるな?けどここは首都の……俺のいた病院じゃない。地方の病院、その一室だ。」



ヤブ医者の言葉に実感が沸かない。


けれど、そんな俺様を置き去りにするようにヤブ医者はこの1週間の話をゆっくりとしてくれた。


国境線での闘い、隣国の新兵器により拮抗が破られ。


隣国の連中は破竹の勢いで進軍を続け、制空権を奪った途端に首都へ爆撃を敢行した。





……まるで、映画みたいだろ?


笑い飛ばしたくなるくらいポピュラーな設定だって思っても……でも、俺様は、笑い飛ばせなかった。


全身を蝕む激痛が、未だにちゃんと動かない身体が……この出来事はフィクションではなく現実だって、訴えてきやがるみたいだ。


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元世界一の料理人、戦場より帰還する 水城双魚 @K-AYA

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