元世界一の料理人、戦場より帰還する

水城双魚

第1話

「今ここに、新たな王者の誕生です!皆様、盛大な拍手を!」



照明を落とした会場、そこに一筋のスポットライトが浴びせられた。


そのスポットライトが照らし出すのは一人の天才……つまり、俺様だ。



「世界一の料理人として選出された今のお気持ちを是非、お聞かせください!」



フッ、慌てるなよ凡人くん。


気を良くした俺様はマイクを奪い取り高らかに宣言する。



「俺がこの世界大会で優勝したのは当然のこと。何故なら、俺様は料理の天才……そして俺様に負けたお前達は俺様以下の凡人だからなぁ?当然の結末を迎えただけのことよ!ハァーッハッハッハァ!」



俺様のありがたい言葉の直後、会場を揺るがす程のブーイングと共に血の気の多いその他大勢、二流以下の料理人達が俺様に殴りかかってきやがった。



「た、大変です!大乱闘です!大乱闘が始まりました!」



マイクを返したテレビ局の凡人くんが慌てふためきながら会場の様子をリポートしていくのを笑いながら俺様は迫り来る連中を何人か返り討ちにしながらも会場からトンズラすることにした。


本当なら全員半殺しにしてやるところだが……こんな連中を半殺しにする時間があるなら創作料理のひとつでも考えている方が遥かに有意義だろう?


まさに努力する天才、それが俺様ってこと。


よぉく覚えておけよ?





「賞金が入らない!?優勝も取り消し!?どういうことだ、ジジイ!!」


次の日。


俺様の店に一人のジジイがやってきた。


元、世界一の料理人として名高いジジイだ。昨日の大会では決勝トーナメントの審査委員長もやっていたなぁ。


俺様が脚光を浴びる前に生きていた過去の偉人。良かったなぁ、俺様と同じ時代に料理人をやってなくて。


そんなジジイが俺様の店にやってきたかと思えば開口一番、優勝の取り消しとそれに伴う賞金の受け渡しの中止を宣言してきやがった。



「アホじゃアホじゃと分かってはおったが、儂の予想を遥かに越えるアホじゃったか……もうお前のアホを治せる薬もこの世には存在すまいて。なぁ?」


「なぁ……じゃねぇだろ!!どういうことだよ、説明しろジジイ──さん」

「ふむ、よろしい」



思わず掴みかかってやろうかとした俺様の顔に杖を突きつけてきやがった……クソッ、以前杖でボコボコにされた悪夢が蘇りやがる……!



「さて、お前さんの処遇についてじゃが……詳しい説明、いるかの?」

「…………いらねぇよ」



深呼吸を数度繰り返し、頭を冷やした俺様は改めてジジイの向かいに座り話を聞くことにした。


……正直な話、分かっちゃいるんだ。分かっちゃ。



「……確かにお前さんの作る料理は美味い。その発想力とそれを実現する技術力はずば抜けておるし、料理に対する真摯な思いも他の誰にも引けは取っておらん。じゃがな、何故他者を必要以上に愚弄するのじゃ?」

「…………うるせぇ」



ジジイに限らず年寄りの説教の内容なんざ天才の俺様が分からない訳ないだろうが。耳タコだわ。



「最早儂でもこれ以上は庇いきれんぞ?何度も言うがこれからは己の言動を悔い改め、善き料理人、善き人間となれ。な?」



ジジイの説教は凡人になら通用するだろうさ。けれど俺様は天才だ。しんみりしたお説教なんざ必要あるわけないだろうが。



「……るせぇよ、うるせぇよ!!なにがよき料理人だ!!俺様の料理人としての腕はとっくに分かってんだろう!?あんただけじゃない、他の審査員の連中だって俺様の料理を一番だって認めたじゃねぇか!!今や俺様は世界一の料理人なんだ!!昔のあんたと、同じ!!」



クソッ、余計なことまで言っちまった。



「……ハンッ、俺様を認めないんなら構わねぇよ!!オラ、さっさと出てけよ!!この俺様の店にしょぼくれたジジイなんざいたら俺様謹製、極上に美味い飯が不味くなるだろうが!!」

「待、待て!まだ話は終わっておららんぞ──」



やっぱ、どうにも調子が狂っちまう。


とにかくここはさっさとジジイを摘まみ出してやろうとして、それをジジイが嫌がって……


直後。


鼓膜を破らんばかりの爆音、そして衝撃によって窓ガラスが粉々になるのを目に焼き付けて。


声を出す間もなく、俺様の意識はそこで途絶えた。



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