めぐりあい花火

今夜は久しぶりに、花火が上がる日だ。

今、夕方の道を歩いている。


この道の先の丘には、毎年のように花火が上がっていた。夏になると当たり前のように打ち上がっていた、花火。その恒例行事が中止になって、実に3年になる。

その間、僕は何を考えて日々を過ごしていただろうか。花火の打ち上がらない夏…いや、特に意識はしていなかったかもしれない。「歴史には逆らえない」「こういうこともある」…そんな思いで、自分に言い聞かせていたのだろうか。


「おーい、ケンジ」

懐かしい声の方向に振り返ってみると、小学校の頃の友だちの姿があった。公園で缶けりをよくやっていた、オカくんだ。


「ケンジ、久しぶり~」

「オカくん、何やってんだよ~」


「いや、今夜は久しぶりの花火大会だろ?」

オカくんとは小学校卒業以来、10年以上会っていない。そのオカくん、現在はこの町のとある会社に勤めているとのこと。

昔話を弾ませていると、他に懐かしい声が聞こえてきた。


「ちょっと二人、何話してるの~?」

はじける笑顔を見ると、遠くからでも誰だかわかった。ユカリちゃんだ。小学校でもマドンナ的存在で、教室でも人気があった。その気さくな雰囲気は、今でも変わっていない。


「私だって、もうアラサーになるんだよ」

「いや、見えない見えない」

オカくんが、明るい声で返す。


「ところでケンジ、なんか昔と比べて暗くないか?」

「そうだよ~、私もそう思ったんだけど」

二人はそう突然、切り出した。


「いやあ、実は…」

僕は都会からのUターン組だった。一度この町を出て、都会の方で就職したのだ。職場とはうまくいかず、8年前にこの町に戻ってきたのだ。


そのことを、二人に正直に伝えた。


「そうだったんだな…」

オカくんは、深くうなずく。


「ケンジくんは、その事をコンプレックスに思ってるんだね…」

ユカリちゃんは続けて、こう言った。

「ケンジくん、でも今日は笑顔でいようよ。だって今日は3年ぶりの花火大会じゃない?」


夕方と思っていた道が、だいぶ暗くなっていた。3人で話しているうちに、時間が経っていたようだ。


ドンと響く音がした。

花火が上がり始めたようだ。


「花火、上がり始めたよ!みんな急いで!」

ユカリちゃんはそう言って、走り始めた。

「おう!ケンジも遅れるなよ!」

オカくんも後に続いた。


「二人とも、速いって!」

僕も走り始める。


丘に向かって、3人とも走っている。

こんな光景、いつぶりだろうか?小学校以来だろうか、どうだろうか。走るうちに、自分も童心に帰っているのを実感する。


二人に続いて、丘に着いた。他の見物客も見受けられる。

そして花火が上がっている。


「ケンジ、着いたか。ほら、上を見ろ」

「とても綺麗ね…」

息を整えて空を見上げると、光の花が咲いていた。


光の一粒ずつが、目に入ってきた。それが脳裏に焼き付いた分、瞳から涙になって溢れ出す。

空白の3年間、そして今のこの花火が、言葉にできない感情を呼び起こす。


この花火はカメラに残すことは難しいし、それに来年も上がるとは確約されてはいない。それでもこの花火は、3人をいつまでも温かく見守っているように思う。


永遠ではないからの、この美しさ。

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短編小説集 真月 洋 @makky31gou

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