チョコパンはおやつです
オレにとって深夜のオンラインゲームは、束の間の贅沢だ。
対戦で「勝ったor負けた」、ガチャで「神引きしたor外れだった」…いろいろあれど、それはそれで楽しい。
「今日のガチャ、当たらないよ。良いのが引けない…引けねーんだよ!」
PC用のマイクに、オレは喋る。
そう…ネットで実況する、オンラインゲーマーなのだ。
「まあ、そんな日もあるって」「ドンマイ」「次があるさ」
「もう課金しないの?」「神引きするまで、諦めないで」
スピーカーから、チャット友達のコメントの読み上げ音声が聴こえる。
最近のオンラインの世界は、チャットのコメントを読み上げてくれるのだ。ただしそれは、機械的な音声だ。ある種のシュールさはある。
何か無責任なコメントも混じっているが、適当に無視していい。
「もういい。オレは、今からこのチョコパンを食べる」
頭を使うゲームには、甘い食べ物が必要だ。まあそのせいで、オレの体重は減らない。
いや、そんなことはどうでも良くて…ほら、おやつは人を幸せにするじゃないか。
「また明日なー。落ちる」「やめとく?お疲れ」「そのチョコパン、美味しそう」
「いや、ガチャの勝負はこれからだろう?」「諦めたら、そこで負けだよ」
うん…みんな、分かった。俺はチョコパンをとりあえず食べたいんだ。
いやー、美味しい。夜遅くに食べる贅沢と、この背徳感…何とも言えない。
まあ…「小さな幸せ」かな?うん、きっとそうだな。
「実況お疲れ~。配信切ったら、外に出てみてよ。少し寒いけどね」
しばらくして、音声が聴こえてきた。いや~オレはもうワンゲームして、終わろうと思ったんだけどな~。
それにしても、このコメントは誰だ?うーん…見慣れない名前だな。新規で配信を観てた人なのか?
うん…今日は、ここで終わっとこうかな…。
「みんなー、今日はゲーム配信は終わるからなー。お疲れ様~。そして、おやすみ」
そしてオレは、配信を切った。
さあ、じゃあ、外に出てみようか…。
「うわ…寒い~。もう冬だなあ」
実況のクセで、思わず言葉に出してしまった。
恥ずかしい~、人目を気にして辺りを見回す。
すると、気づいた。月が出ていることに。
しかも…これは満月だ。
時間はとっくに0時を回っている。
スクリーンの見過ぎで、疲れ切った眼だ。まんまるのお月様の光は、とても優しい輝きだ。ほどなくして、星も発見した。
こんなにも美しいものが身近にある、オレは知らなかったんだな…。
「たまには、夜空を見上げてみようかな」
オレは気分良く、納得した。
…おっといけね。チョコパン、食べかけだった。
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