渦巻く1999

我々は日々、スマートフォンを見続ける。

写真は鮮明で、操作性もスムーズだ。



僕も今、スマートフォンを見ている。寝る前のベッドの中で…。

ゲームアプリに熱中している。


とたん、目の前が渦のように動きだした。

「なんだ、これは?」

渦のように巻いたかと思ったら、視界が真っ暗になった。そして、頭の中に何かが流れてくる。いろいろな過去の記憶、思い出、そして色鮮やかな光景が…。

「…走馬灯か?僕は、死ぬのか?」


そう思った瞬間、目の前に皇帝らしき人物が現れた。

皇帝…よく見たらそれは「画面越し」であることがわかる。色がついているのはわかるが、ドット絵式ではないか!


「おぬし、ここがどこにいるのか分かるか?」

皇帝が喋りだす。いや…良く聴いたら女性の声、そして皇帝らしき人物も女性。女王だったのだ。

「え…ここはどこなんですか?辺りも真っ黒だし、僕には全くわかりません!」


「慌てるな。ここは…単なる宇宙意識だ」

僕はポカンとした。宇宙意識なんて言葉、怪しいサイトでしか見たことがない。

女王が、言葉を続ける。


「そしてここは、『今』ではない。時空を超えた場所だ」

今ではない?もうわけがわからない。

僕はここから帰って来ることができるのか、不安になった。

「あの…僕は…帰れるのでしょうか?」


「そう慌てるな。もうちょっと私に付き合え」

女王がそう言うと、僕は心の底から安堵した。



「女王様…ってお声かけしたらいいのですか?何のために、あなたは僕の前にいるんですか?」


「…過去からのメッセージだ」

過去からのメッセージ…。ではここは、今の20XX年ではないのか。


「私たちは…1999年に作り出された。白黒だった私たちの世界に、はじめて色の世界が宿ったのだ」

女王は少し悲しそうに、言葉を続ける。


「当時私たちは、とてももてはやされた。『色のついた写真』に『先進的なネットワーク』…リアルの人々には斬新だったのだよ。だが…私たちは捨てられた」

なるほど、僕は少し察しがついてきた。1999年は、当時でいうガラケーの画面がカラーになった頃だ。


確かに斬新だった。あの衝撃は、僕らの今には忘れられているが…少なくとも、僕には衝撃だった。


「私は、捨てられた後のことは知らない。そちらでは…今、どうなっておるのか…?」

それを聞くと、僕は言葉に詰まった。スマートフォンが普及して、人類はそれでお金の支払いをしたり人と繋がったりということは…言えなかった。

「…それは…僕らの時代は、大丈夫ですよ!心配しないでください!」


僕は場を紛らわせるために、嘘をついたはずだった。


「たとえ何か大変なことがあっても、僕が責任をもって何とかします!時代を終わらせません。約束します!」

僕の何が、こう言わせたのだろう。


すると女王は、何か安堵したようだった。

「そうか…。なら、安心だ。…おぬしよ、任せたぞ」


すると、目の前がまた渦巻いた。驚く間もなく自分の部屋のベッドの横に、自分は立っていた。

目の前には、昔のガラケーが転がっていた。


そうか…。僕らは大事なものを、見失いかけている。



次の日、僕はスマホをバッグの中に入れて会社に向かっていた。そして道行く人びと…登校中の子どもたち、大人たちに、「おはようございます」と言葉をかけ始めていた。

予想通りというか、挨拶の返事は返ってこないことがほとんどだ。


でも、それでいい。未来は変えられる。

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