看護師さんとの散歩
部活の練習中に脚を怪我して、だいぶ経つ。治療を続けて、リハビリを頑張った。
今日は病棟内の庭で、散歩ができる日だ。主治医の許可も得ている。
久しぶりに地面に足をつけた。
大地に立つ感覚は、想像以上に感動だった。
だけど、歩くのは難しかった。
「今まで歩くのが当たり前だったけど、地面に立つだけでもこんなに気持ちいいんだな…」
そんなひとりごとを、不意に口にしていた。
「歩くの、手伝おっか〜?」
女性の声に気づいて振り向いたら、白い服…看護師さんだった。
ただマスクをしていない。そして右手に持っているのは、未成年には吸えないもの。
「やっべっ!休憩中なの、忘れてた!」
急いで看護師さんはマスクをつけ、吸っていたものの火を灰皿で消している。
「君…お願いだから、見なかったことにして!」
看護師さんがタバコを吸うのは、正直以外だった。
「驚くのも無理ないね。この仕事、君の思っている以上にストレス溜まるのよ。病院はいろんな人いっからさ〜」
庭の木々が、そよ風で揺れている。寒い日々が終わり、だいぶ暖かくなっていた。
「君も、わたしくらいの歳になったらわかるわよ。よし、休憩終わるから…まった明日ね〜」
おねえさんは看護師さんっぽくはないけど、どこか爽やかさを感じた。
翌日。
「雨だね〜」
「雨ですね…」
そう口を揃えて、窓から外を眺める。今日は止みそうにない。
「雨降って、地固まる…」
ふと口にした言葉に、看護師さんが反応した。
「君、そんな悟ったようなこと言うんだね〜」
「いや、特に深い意味はないっす」
僕の言葉に、看護師さんはなんだか清々しそうだった。
「まっ、焦ることないっしょ。休憩時間終わるから、また明日〜」
そう言って去っていく白衣の足取りは、軽快だ。
今日は晴れ。いや、見違えるばかりの晴天だ。
「夜来風雨の声、だったのにな」
僕が呟くと、いつもの明るい声がした。
「また、小難しいこと言っちゃって〜」
僕は返す。
「看護師さん、今日はなんだか明るいですね」
「う、る、さ、い!ほら、外に行くよ。地面も乾いてきたし、今なら歩けるよ」
病棟内の庭で、歩行練習を繰り返す。
看護師さんの補助のおかげで、徐々に歩けるようになった。
「こんなとこかな〜」
看護師さんは、続ける。
「後は、自分で頑張るんだよ。若者!」
僕は最後に言った。
「看護…いや、おねえさん。今日まで本当にありがとうございました」
「おねえさんって…ん?君…もしかして泣いてる?」
僕は確かに、泣いていた。
こんなに優しくされた経験は、初めてのような気がして…。
「そうか〜。よしよし。…ん〜残念だけど、休憩終わりだから…強く生きるんだぞ〜、若者よ〜!」
そう言って去っていったおねえさんは、紛れもない「白衣の天使」だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます