第2話 時間の流れどうなってんの?「ん゛ー、ん゛ー。」
「ちょ、静かにしろ。まだそこ、タイトルだから。」
結人は隆弘の口をふさいでいた、手をはずす。
「はぁー。何すんだよ?急に。」
「しょうがないだろ。お前がしゃべってると、話が終わんないんだよ。」
「それ、それだよ。さっきから訳わからんことばっか言ってよ。話が終わるってなんだよ?次回予告ってなんだよ?タイトルってなんだよ?お前、なんか隠してるだろ。」
「別に隠してるわけじゃねーよ。俺も最近知ったことだ。ここは、小説の中らしい。」
「ん?ん?ん?小説?ん?ここが?」
「あぁ、そうらしい。」
「小説って、あれだろ?字がいっぱいの本。」
「アホみたいな解釈だけど、間違ってはいない。」
「えっと、ここがそれの中ってことでOK?」
「うん。」
「俺も、お前も。この公園も。この町も。この空も。全部?」
「お前の言いたいことはわかる。でも、事実は事実だ。ここは、小説の中で、俺たちはその登場人物。」
「まじかよ。」
隆弘は、頭を抱えてうなだれる。
その体は小刻みに震えていた。
無理もない、俺だってこの事実を知ったときは、わけもわから
「面白ぇー。」
急に両手を真上へ突き上
「わくわくするー。俺が小説の登場人物?まじかよ?最高ー。」
忘れてた。そうだ、こいつはこういうやつだった。
心配して損した。
なにも変わっちゃいない。
出会ったあの頃から、なにも。
*
「いつも何読んでんの?」
教室で小説を読んでいた俺に、こいつはいきなり話しかけてきた。
土井隆弘。いつもチャラチャラして騒いでいる。
俺は、こういう無神経な奴が一番嫌いだ。
今だってそうだ。放課後の教室で小説を読んでいる俺を茶化そうと、無神経にしゃべりかけて
「え?中学ん時の俺じゃん。何この映像?どうなってんの?お前がやって」
「頼む。黙っててくれ。今、回想シーンだから。これについては、後で説明する。」
「悪い悪い。黙るわ。」
「あと、動くなよ。」
「わかってるって。」
少し巻き戻る。
今だってそうだ。放課後の教室で小説を読んでいる俺を茶化そうと、無神経にしゃべりかけてきやがった。
「なあなあ、聞いてる?あ、もしかして、人に言いにくいやつ?それなら、そう言ってくれよ。あれだろ?俺も好きなんだよ。あれ、エロいよ」
「違うわ。なんか勘違いしてるだろ。これは、普通の小説だから。」
しまった。思わず反応してしまった。
「なんだ。普通のやつか。それ、面白い?」
どうせ対して興味もないくせに。
「あぁ、面白いよ。つまんなかったら読んでないからな。で、なんか用か?用がないならどっか行ってくれないか?小説に集中できないんだが。」
「なんか怒ってる?俺、なんかしたか?」
したよ。いろんなことを。
でも、もうそれは関係ない。
わかってんだよ。自分でも。自分が小さい人間だって。なにも出来ない口だけ野郎だって。
だから、ムカつくんだよ。そんな自分が。
「隆弘、そろそろ、行くぞー。」
「あ、悪い。俺、ちょっとパスだわ。」
「はぁ?お前がカラオケ行こうって言ったんだろ?」
「そうなんだけどよ。急に用事思い出してよ。ほんと悪い。今度、おごるからよ。」
「プレミアムドリンクバーな。全員分。」
「普通のじゃダメ?」
「ダメだな。」
「OK。わかった。」
「忘れんなよ。」
「おう。ほんと悪かったな。」
「みんな、行こうぜ。」
「なあ、俺、なんかした?」
「いや、帰れよ。用事あるんだろ?」
「ん?あー、あるよ、用事。お前との話。」
「はぁ?」
*
あのとき、無神経にしゃべりかけてきたこいつと、まさかここまで長い付き合いになるとはな。
「もういいぞ。」
「今の何?中学ん時の俺らだったよな。あの教室も懐かしいなー。」
「そうだよ。中学ん時の回想だからな。」
「過去に戻れんの?小説って何でもありだな。」
「戻れるわけじゃない。あくまで、回想
。見るだけだ。」
「いつでもいいのか?」
「いつでもじゃない。俺が思い出せる範囲限定だ。」
「じゃあさ、中3の体育祭はいけるか?」
「中3の体育祭?あぁー、なんとなくなら思い出せる。」
「ちょっと、頼むわ。」
次回
『中3の体育 』
「硬っ、苦っ、まずっ。なんだこれ?」
隆弘は、祭を食べた。
祭を食べた?
「何をやっとんじゃ?お前は?」
「ん?いや、この浮いてる字、食えんじゃないかなーって。」
「食えんじゃないかなー?っじゃないわ。食えるわけないだろ。それ、次回予告だぞ。ってか、食うなよ。」
「だな。だめだこれ。硬くて苦い。とても食えたもんじゃない。」
小説が出来るまで~登場人物は今日も必死~ 菅田山鳩 @yamabato-suda
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