『申し訳ないがちょっと新しいルート作るわ。Ⅴ』


 前世では乙女ゲームの続編に当てはまる『学園生活などの日常を中心としたスピンオフ作品』が発売された際、許嫁とサブキャラのストーリーが存在していることを知り、解放条件を満たすため夜遅くまでやり込んだみたいだ。


 周囲に求められる印象を崩さず学園生活を送る中で時折人目を忍んで一緒に息抜きする二人の関係がそのストーリーで垣間見えて更に好きになったようだ。

 しかし其処でもサブキャラの手作り料理を許嫁が食べる描写は皆無だった。


「賑やかな新入生ですこと。」


 騒がしくない点だけは褒めて差し上げますわ、と悪役令嬢は今も彼らを描き続けている。

 彼女の足下にはスケッチした用紙で溢れ返っていた。私の隣で相当な枚数を描いていたが彼女の勢いは『執念』そのものであった。


 薄々察していたが許嫁やサブキャラ、そして悪役令嬢の行動から推測するとこの世界は私の知る乙女ゲームとは異なるルートを辿っている。


 ゲーム本編で主人公が攻略対象に対して印象を与えるような行動を選択すると分岐点が生まれ、ストーリーが展開していく。同時に様々なエンドに繋がる可能性が高くなる。


 好感度を上げず、印象を与えない行動を選択し続ければ死なずに済むが攻略対象との接点はごっそり無くなる。各々の過去と向き合い、与えられた困難を乗り越えた末のトゥルーエンドやグッドエンドへ繋ぐためのストーリーも開放されない。


 平々凡々と学園生活を過ごして卒業、結果ノーマルエンドを迎える。


 いつか私の人格が去り、主人公の人格が戻って来ても何事もなく日常を送れるように目立った行動は避けてきた。

 その後で主人公が歩みたい道を差し支えなく目指せるように意識していたはずが事態は予想外の方向に進みつつある。


(この作品、隠しルートは悪役令嬢の兄ルートなんだけど他は無かったぞ。)


 全ての攻略対象のストーリーをクリアすることで開放される悪役令嬢の兄ルートは隠しキャラだけあって選択肢が高難度、一つ一つの分岐点で条件を満たしてないと即行でデッドエンドの茨道ストーリーである。

 中でも主人公を生け贄にして災厄の魔獣を召喚する世界滅亡エンドはトラウマ展開だった。制作者側、怖い。


「ねえ、貴女。」

「は、はい!如何されましたか?」

「貴女は彼らを見てどう思います?」


 ずっと彼らの絵を描いている悪役令嬢が唐突に切り出してきた。


 今も許嫁とサブキャラから目を離さず次々と白紙に写しているが、この瞬間だけは私に一瞥を投げていた。少し悩んだ末、私は率直に答える。


「その、羨ましいです。」

「何故?」

「彼らは主従の立場ですが今だけは身分という枷から解放されております。この暫時は対等に談笑し、切磋琢磨し合えるご学友です。信頼し合える関係をお築きになられている姿が私はとても眩しく思えました。」

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乙女ゲーの主人公に転生してしまった私は悪役令嬢とともに攻略対象とサブキャラの恋を応援する。 シヅカ @shizushizushizu

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