キライキライスキキライ

磯風

アキラ先輩の事

 アキラ先輩はちょっと怒りっぽい人だけど、俺の話を面白いってよく笑ってくれる人だ。

 芸人になりたいって言った時も頑張れって言ってくれた。

 なのに……今日、突然にこんなことを言い出すなんて。


「俺は、『お笑い』が嫌いだ」


 俺自身を否定されたように感じて、目の前が真っ白になった……


 ポテサラドッグを頬張りながら、アキラ先輩はめちゃくちゃ機嫌が悪そうだ。

 昼休み、屋上に続く階段には人通りはなく、俺とアキラ先輩はいつもここで飯を食っている。


 新学期でなんとなく教室に居づらかった時に、ここに来て先輩と知り合ったのが去年の春。

 クラスで友達ができても、なんとなくここに来てしまう。

 アキラ先輩が、いつもここにいるから。


 何故か話しやすくて、もの凄く気持ちが楽になるんだ、先輩といると。

 だからか、誰にも話していない夢を初めて話した。

 笑われるかと思ったのに、めっちゃ応援してくれた。

 それなのに……


 俺は手に持った焼きそばパンを口に運ぶことすらできずに、呆然としてしまっていた。

 先輩はそんな俺を無視して、話を続ける。


「何が『お笑いで健康になる』だよ? 健康なんざ食生活と運動で、ちゃんとしろっつーの! 『お笑いが脳に良い』? てめーの脳のケアを他人任せにしてじゃねーよ!」


 先輩は……時々こういう暴論を言う。

 でも、こういうところ、結構好き。


「そもそもっ! 『お笑い』ってのは、それをやってる本人が笑いを取るために自分で言う言葉であって! 第三者が誰かに向かって『お笑い』だなんて言うのは、失礼千万だろうがっ!」


 え?


「そうだろうっ? 俺は、おまえが誰かから『お笑い』なんて言われるのは嫌なんだよ!」


 えーーー……そういう感じで、激高してらした……と?


「『お笑いぐさ』って言われて馬鹿にされて、なんで怒らないんだよ、おまえは!」

「先輩……『お笑い』が嫌いって……」

「嫌いだよ! その言い方、大っ嫌い! おまえがなりたいのは『芸人』で『喜劇人』だろうっ? 素晴らしい夢じゃないか! なのになんで、そんな侮蔑の言葉で呼ばれなきゃならないんだよ!」


 そっかー。

 俺が馬鹿にされてると思って……怒ってくれてたのかー。

 へへへへー。

 やっべー。

 超嬉しいわー。


「先ぱ〜い、多分そいつ等の言ってる『お笑い』ってもう既に固有名詞っつーか、ジャンルの名前みたいになっちゃってて、他意はないと思うっすよ?」

「……は?」

「正しい日本語の使い方じゃないと思うっすけど、俺を……芸人を目指してる奴を馬鹿にしてるってことでもないっす、多分」


 ぽかんとしてる。

 こういうとこあんだよなぁ、アキラ先輩。

 突っ走っちゃうというか、思い込んじゃうというか。

 暫く口をへの字にして考え込むようにしていたけど、ポテサラドッグを食べきって真っ直ぐ俺を見て言う。


「それでも、やっぱ俺、『お笑い』って嫌い」

「……俺は……先輩が俺のことを『芸人』で『喜劇人』って思ってくれてりゃ、他の誰にそー言われても、なんとも思わないっすよ?」


 先輩の顔がちょっと緩んだ。

 少し、笑ってる。


「俺のために怒ってくれて、嬉しーっす」

 そういうと、別に……と言いつつ、もう一個のパンを取り出した。

 ……なんでまたポテサラドッグなんだよ?


「先輩……炭水化物ばっかりっすね」

「うるせぇ。焼きそばパン食ってる奴に、そんなことを言う資格あるか。俺のは一応野菜だが、おまえなんて小麦ばっかじゃねーか」

「二個目は、タマゴサンドと野菜サンドですー。先輩ほど偏ってねぇっすー」


 もうすぐ卒業式だ。

 アキラ先輩はこの階段からいなくなってしまう。

 でもきっと俺はここに来るだろう。

 だけど、ここで飯を食うことはなくなると思う。


 あーあ、俺って結構感傷的だなー。







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キライキライスキキライ 磯風 @nekonana51

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