大人はメスガキには負けないが12歳のメスのヒグマをメスガキって言うのは詐欺なんだが???

春海水亭

まぁ、大自然の前にはザコですわ

「うわああああああ!!!!十二歳のメスヒグマだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

「グマグマ」

 性に積極的で成人男性を舐めきっている十二歳の女の子――いわゆるメスガキがとある田舎町に出没すると聞いて、なるほど田舎というのは性に奔放なのだなぁと偏見と期待に胸とかを膨らませた雑魚山が出会ったのは十二歳のメスヒグマであった。おそらく数百人殺している。

 その体長は1.4メートル強、小学六年生女児の平均身長とほぼ一致している。

 だが、その肉の分厚さを見るが良い。思わず「でっか……」という声が漏れるほどに太い。

 胴が太い。大樹の幹を思わせるほどに太い。

 首が太い。その幹からもう一本木が伸びているのかと思わせるほどに太い。

 脚が太い。大地を踏みしめる四足の一本、一本が、地を砕くかのような重量感を持っている。

 その先の爪に至るまで太い。野生動物が武器を持たない理由を何よりも雄弁に語っている。

 当然、頭も太い。そこから発せられる「グマ」という咆哮に至るまで太い。

 つまりは、見ただけで圧倒的に強いとわかるのだ。


「ほら♡ざこ♡ざこの大好きな小さな女の子だぞ♡」

 雑魚山の背後でメスガキが煽りたてる。

 常日頃から雑魚山を負かしている十二歳のメスガキ――雌柿である。

 この雌柿は情け容赦ないことに関しては地元でも有名なメスガキであり、いつも雑魚山をボコボコにしている。

 そして雑魚山はあんまりにも自分よりも小さな女の子に負かされるものだから、大人としての誇りを取り戻すために、この田舎町まで雑魚狩りに来たのである。

 田舎のメスガキを相手に勝利の経験を積んで、大人としての誇りを取り戻し、最終的に雌柿に勝利するつもりであった。

 しかし、目論見は崩れた。


「十二歳のヒグマは成獣だし、人間年齢に換算すると俺より歳上の可能性まであるわ!」

 叫ぶ雑魚山を尻目に、雌柿がヒグマの前に立った。


「何やってんだメスガキィ~ッ!!!」

「ざこ♡お前に本質を教えてやる♡」


 焦る雑魚山とは対象的に雌柿は落ち着き払っている。

 だが、それも当然のことであろう。

 メスガキとは常に大人を相手にする小さな女の子、つまり挑む相手は常に自分より強者――そういうことになる。

 相手が成人男性であろうと、メスのヒグマであろうと自身より大きく強いという点においてそれは変わらない。

 例え目の前に神話の巨人ゴリアテが立っていたとしても、ダビデのように立ち向かったであろう。


「おい♡、ヒグマ♡」

「グマァ?」

「方程式わかるか♡」

「グマング」

 雌柿の問いにヒグマが首を横に振る。


「なっ♡」

 ヒグマの返答を受けて、雌柿は雑魚山に視線をやって片目を瞑る。


「何が?」

「大人のくせにわかんないの♡ざっこ♡学習指導要領において方程式……この場合は一次方程式のことだけどぉ……方程式を習うのは中学一年生から♡そして小学六年生のアタシにも方程式はわかりませぇん♡つまりヒグマとメスガキとの間にメスガ共通点が生まれたぞ♡ざこ♡」

「メスガ共通点!?つまり……一次方程式がわからないという点で十二歳のメスヒグマとメスガキは一緒だと言いたいのか?」

「よくわかったな♡ざこ♡相手がヒグマとか関係ないぞ♡自分より小さな十二歳の女の子ならなんとかしてみせろよ♡大人だろ♡」

「グーマグマグマグママグマ!!グママママママ!!!!」

 雌柿の言葉に、嘲笑うようにメスヒグマが吠え、後ろ足で立った。

 立ち上がってみれば、たしかにそう言えるだろう。

 純粋な身長の話だけをするならば、メスヒグマは雑魚山に劣る。

 今、雑魚山はメスヒグマを見下ろしている。

 だが、それでメスヒグマの圧倒的な威圧感が消えたわけではない。


「グママ……グンマ」

 メスヒグマは何かを言うように相手に爪を向けた。


「ざこ♡このメスヒグマ発情期だぞ♡性に奔放な十二歳の女の子という点でメスガ共通点が再び生まれたな♡」

「グンマケン」

 雌柿の言葉にメスヒグマが頷く。まるで仲の良い友人同士のようである。

 こんなことはありえない――そう思われる方もいるだろう。

 確かに、読者の方が今思っておられるようにヒグマは群れを作らない生物である。

 だが、冷静に考えてみていただきたい。

 女子というものはすぐにグループを作り、行動を共にするものである。

 なれば、ヒグマと人間という差はあっても同じ年齢の女子として、種の本能をも超えてグループを作っても、おかしくはないだろう。

 それでもおかしいと思われるのならば、酒でも飲んで今日だけは忘れなよ。


「……つまり、こういうことか」

 雑魚山はこの戦いにおける法則を理解する。

 人間はヒグマには勝てない。

 だが、大人はメスガキには負けない――いや、負けてはならない。

 なれば、メスガ共通点を掴むことでヒグマをメスガキに貶しめて、熊殺し――否、メスガキリングを成し遂げる。


「わかったか♡ざこ♡お前が助かる手段はそれだけだぞ♡」

「グ~マママママママッ!!!!ハタラククルマ!!!」

「無理だ!」


 何故、こうなってしまったのだ――雑魚山は心の中で叫ぶ。

 己はただ雌柿に勝利するために経験値を積みたかっただけである、それをボスを殺すためにラスボスを殺すような目にあっている。

 圧倒的な理不尽。

 大人はメスガキに負けないと言っても、相手はガキでもなければ人間でもない。

 メスのヒグマである。

 己が銃を持っても、互角にはなれない生物である。

 人類の文明を蹂躙できる圧倒的な野生である。

 それでも――雑魚山は雌柿をちらりと見た。


 蠱惑的な嘲笑を浮かべる義務教育中の淫魔――学習指導要領外の勉強はわからないくせに、生意気にも大人を誑かす方法は知っている。そして、己はそんなメスガキに幾度も敗北してきた。

 わからせてやらねばならない――大人の強さというものを。

 これはヒグマとの戦いではあるが、それと同時に雌柿との戦いでもある。

 己の生命のためだけではない、誇りのために戦うのだ。


「ガキのくせにでっけぇ胸と尻しやがって……」

 自分を鼓舞するように雑魚山は言った。

 ヒグマの太い身体を見て、メスガキに言うように、そう言ったのだ。


 メスガ共通点――確かに、そうである。

 相手が十二歳のメスヒグマと言えど、要素要素はメスガキに繋がっている。

 なれば、ヒグマに感じるメスガ既視感をぶつけ続けるのだ。


「町中でこんな格好しやがって……このメスガキが……大人を誘いやがって……」

 全身が毛皮に覆われていることから見逃しがちであるが、ヒグマは全裸。

 人目につきそうな場所で、服を脱ぎ去ることも多いメスガキとの重要なメスガ共通点である。

 読者の皆様も、大学入学メスガ共通テストを受ける際はこのような大設問は逃さないように気をつけていただきたい。


「グィオンショウジャノカネノコエ!!!」

 メスヒグマが苦悶の声を上げる。

 メスガキと結び付けられるごとに、ヒグマのヒグマ性が剥ぎ取られ、メスガキに近づいていく。

 かつて人間は理解できぬ現象を神や妖怪と呼んだ、そして、それらの幻想生物は科学によって、単なる現象へと戻された。

 同じことである。

 かつてヒグマとされていたものをメスガキに戻す――つまりはサイエンスガキ。

 筆者は文系だからよくわからないが、理系の人はわかるんじゃないかな。


「グンマ!サイタマ!」

「ぶふぇっ!」

 ヒグマの豪腕を受けて、雑魚山が250メートルほどふっとばされる。

 ビルの壁に叩きつけられ――否、埋め込まれている。

 すぐに抜け出さなければ――そう思った瞬間に、メスヒグマは目の前に迫っていた。


「マエバシッ!」

「ぶふぁっ!」

「イセザキッ!オオタッ!トミオカッ!」

「ごふぇっ!どひぇっ!ぎょえっ!」

 嵐のようなヒグマのラッシュである、その太い二本の前足を腕のように器用に操って、何発も何発も雑魚山に拳を叩き込んでいく。


――死ぬ。

 ヒグマがメスガキに近づいているおかげで、一発が即死級のヒグマの攻撃を何発も受けることが出来ているが、死ぬのは時間の問題である。

 読者の皆様もサンドバッグに入れられてプロボクサーに殴られ続けたあの時のことを思い出していただきたい。その時と同じ――否、それ以上の死の脅威である。


――もう、無理だ。

 雑魚山は目を閉じ、ただ受け入れるように力を抜いた。

 祈る、意識か痛みが消えますように。

 思うことは唯一つ、楽に死にたい。


――大人だからってヒグマに勝てるわけがないだろ。

――そもそもメスガキにも勝てないのに、メスヒグマの成獣に勝てるわけがないだろ。


 待っていると、やがて感覚が消え始めてきた。

 そして、脳裏に浮かぶのは今までの数多の思い出。


――ざぁこ♡大人のくせに小さい女の子に勝てないんだ♡


――よっわ♡ざこのセキュリティ脆弱すぎ♡暗証番号丸わかり♡


――あっ♡ざこだ♡あっ……ハリウッドザコシショウさんでしたか。失礼しました。サインなど頂いてもよろしいでしょうか。ありがとうございます。あっ♡ざこ♡ザコシさんいるぞ♡サイン貰っとけ♡握手もしてくれるらしいぞ♡


――ざこ♡いつになったらアタシに勝てるんだよ♡アタシもう大人になっちゃうぞ♡


 不思議だ、思い浮かぶのは雌柿のことばかり。

 最後まで勝てないままで終わるのか。


――ざこ♡戦え♡大人なんだろ♡負けないんだろ♡


 その時、知らない思い出が雑魚山の脳を揺らした。

 いや、思い出じゃない。

 弱々しい力でで重い扉を開くように、雑魚山はゆっくりとまぶたを開く。


 雌柿が叫んでいる。

 もういいだろう。

 もう死ぬ。

 そう思っていたはずなのに、心が身体を急かすかのように心臓が早鐘を打つ。

 闘志が満ちていく。


「何発殴っても大人を殺せない……メスガキは非力だから……お前はヒグマではないただのメスガキだぁーっ!」

 瞬間、ヒグマの姿がハッキリとメスガキに変わる。


「行けっ♡」

 雌柿が頷く。雑魚山も頷く。

 ヒグマ――否、メスガキをわからせるために。


「よっわ♡」

 

 普通に負けた。メスガキに勝ったこと無いんだから、ヒグマがメスガキに変わっても勝てない。それはそう。

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