第2話 Maple

両手をキーボードの上に置く。

一つ一つの言葉を丁寧に紡いで、思いを込める。作り出した物語がたくさんの人の元に届くよう願いながら、登場人物たちに命を吹き込む。

誰かの心に響きますようにと願いながら書いていく。

小学校の時に出会った一冊の本。

その本が僕の人生を変えた。何もかも無くしてしまった僕を救ってくれた。

そんな本が書きたい。

それが僕の夢。


僕は小説家をめざしている。中学3年の時からインターネット上で執筆活動を始めた。大学2年になった今でも続けている活動だ。

徐々に読んでくれる人も増え、ファンと言われる人たちもつくようになった。

年齢層はまるでバラバラで、感じていることも人それぞれ違う。コメントを読んでいても面白いなーと感じる。


そして今、新作を書き始めたはいいものの、壁にぶち当たっていた時、社会人の兄から面白いものを聞いた。

紫苑しおんー。こないだ、俺が仕事から帰ってくる時に駅で路上ライブやってる子がいてさー。その子の声がめっちゃ綺麗なんよね…あれは惚れるわー…お前も今度行ってみろよ…」


というわけで、話のネタになるかもしれないし息抜きも兼ねてあまり目立たない格好で行ってみたのだが、正直に言って、ものすごくかっこよかった。

聞けばその子は歌手を目指しているらしい。夢に向かっていく人の姿はかっこいい。

僕も負けてはいられない。


次の日キャンパス内で歩いていると、聞いたことのある女の人の声が聞こえてきた。

間違いない、昨日路上ライブやっていたあの子だ。

そう言って僕が日記代わりに付けているノートを開く。

名前は…そうだ、巣鴨蘭さんだ。

「あのー、巣鴨蘭さんですか?僕、昨日のライブ見ました!」

そういうと、彼女は人懐っこい笑顔で、

「見に来てくださってありがとうございます!嬉しいです!」と言った。

彼女は舞台表現学部だという。

そして、僕が小説家を目指していることを伝えるとかっこいいと褒めてくれた。


こんないい人の曲、もう一度聞きたい。


僕は、またライブを見に行くと言い、その場を去った。


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orchid record 江崎咲 @jinseiichidokiri

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