orchid record
江崎咲
第1話lilac
ギターを手に取り、マイクに向かう。
高鳴る胸を抑えながら、深く息を吸い、歌い出したらそこは、自分だけの世界。
歌は、周りの人に自分の世界を共有することができる。
その世界の中で何を伝えられるか。
全員でなくてもいい。
私の歌を必要としている人に、限られた時間だけでいいからとどけたい。
これが私の夢。
歌手をめざしている私は、高校2年生の夏から路上ライブをやっている。大学2年生になった今では、たくさんの人が立ち止まってみてくれるようになった。
帰宅途中のサラリーマン、高校生らしきカップル、親子連れ…日によって様々な人が来てくれる。
今日は、サラリーマンと、フードを被っている大学生(?)と、社会人カップル、あと、
「蘭!今日のライブも絶好調だねー!さすがあたしの蘭。」
これは小学校からの親友の
「おいおい!この曲新曲?俺好きだわ〜。ロックっぽい!!かっけぇ!」
これが同じく小学校からの幼なじみ、
「なんか、今までの蘭とちょっと違うな。新しい一面見た感じ」
これが中学の時にできた優介の友達の、
この4人はいつも来てくれる、私の最初のファンだ。
「俺、もう1回この曲聴きたいー!アンコール!!」
優介はいつもこうしてライブを盛り上げてくれる。
「じゃあ、もう一度同じ曲を歌って今日は終わりにしたいと思います。最後までお付き合い下さい!」
♪♪♪
「最後まで聞いて下さり、ありがとうございました!ぜひ、また来てください!
今日もこうして、私の一日が幕を閉じた。
次の日、キャンパス内を歩いていると、急に後ろから抱きつかれた。
「おはよー蘭!昨日のライブも盛り上がってたねー!それにしても、よくあんな大勢の人の前で堂々と歌えるよねー。普段前に出るタイプじゃないのにー。」
「わぁ!!胡心ー!びっくりしたぁ。おはよう。胡心はいつもそれ聞いてくるね。逆に胡心は前に出るタイプなのに、緊張しいだからね。」
胡心は中学も高校も学級委員をやっていたのだ。みんなの前に立って、指示を出す姿はかっこよかった。
「蘭が羨ましいわぁー」
キャンパス内は、まだ人も少なく、大きな胡心の声がよく響く。
胡心もいい声してるよなーなど考えながら歩いていると、
「あのー、巣鴨蘭さんですか?僕、昨日のライブ見ました!」
昨日いた、フードを被ってた大学生だ。まさか同じ大学とは。
「見に来てくださってありがとうございます。嬉しいです!」
昨日はフードを被っていたが、今日は被っていない。しかも、なかなかかっこいい。
「僕、
「私は舞台表現学部です。」
「僕、小説家目指してるんですよ。夢を叶えようとして行動を起こしている人を見ると僕も頑張らなきゃという気持ちになります。」
「小説家!かっこいいですね!」
「いえいえ、また、ライブ見に行きますね!」
西山さんは屈託のない笑顔でそういって、去っていった。
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