嗚呼 最高の酒の飲み方よ

@shikabane696

第1話

「お疲れ様でした、お先に失礼します」


 先輩の方々に一礼すると、会社を後にする。帰路を行く足取りはいつもより軽かった。


「今日は定時で帰れたぞ、助かった」


 次の日が休みの金曜日、その日は会社を定時で上がれた。


「残業があると疲れて料理する気が起きないからなぁ、今日は何を飲もうか」


 毎週金曜日と休日の楽しみは料理と飲酒だ。平日は酒を飲まないとを決めているので、この日だけ飲むことができる。

 そして何より楽しいのは自分自身で酒に合う肴を作れることだった。


「さぁて作りますか!」


  自宅に着き、先に風呂を済ませると台所に立つ。先に風呂を済ませるのは酒を飲んだ後でもそのまま眠れるからだ。

 どうでもいいが、自分のプライドはどれだけ酔っていても風呂と歯磨きを忘れないことである。

 

 本日作るのは唐揚げとポテトサラダ。

 まずは鶏肉の下拵えから始めた。


「鶏肉を一口だいに切って、ボウルに入れる。そこに酒と醤油、さらに生姜チューブとニンニク……」


 生姜をチューブでいれたならニンニクもチューブで入れるのが普通であろう、しかしどうでもいい情報、自分はニンニクが大好物! 唐揚げに加えるニンニクは生のすりおろしニンニクをいれるのだ。


「えーと……生姜がこれくらいだからニンニクはーーこのくらいかな」


 そう言ってニンニクを5片ほど入れる。すりおろしたので手に臭いが着いたが気分は悪くない。


 こうして合わせ調味料を作るとビニール手袋を手につけ、鶏肉を揉み込む。そしてある程度揉み込むとラップをかけ、味を染み込ませた。


「でもなんか足りねぇなぁ……」


 折角の金曜日、次の日が休みなので夜更かししても問題はないと言うのに味が一種類だと流石に飽きてしまう。二枚入りの鳥もも肉を買っていたので、あと一枚をどの味にするか、とりあえずヒントを得るために冷蔵庫を開けた。


「豆板醤があった!」


 冷蔵庫を見回して見つけたのは豆板醤とコチュジャンだった。頻繁に使う機会もないため、瓶の中にはいっぱい入っている。それと中華だしの味覇を手に取ると、二枚目の調理に取り掛かった。

 前と同様に鶏肉を一口だいに切ると、調味料を加える。


「軽いベースとして醤油と酒、そして大量に入れるとはジャンのお二人! そして味覇だいたい大さじ適当〜」


 豆板醤とコチュジャン、そして味覇を目分量で入れると再び手で揉み込む。そしてラップをかけると味を染み込ませた。


「そんでもって次はポテサラだ」


 鶏肉を冷蔵庫にしまうと続いてポテトサラダの調理に取り掛かる。まずジャガイモの皮を剥くと、四等分に切り分け、熱湯の入った鍋の中にいれる。ジャガイモと同時に銀杏切りにしたニンジンも一緒に茹でた。


「それと具はベーコンだな、細かく切って炒めよう」


 フライパンでベーコンを焼き色がつくまで炒める。そして粗挽きこしょうを大量にかけると、それを皿にうつした。

 

「ジャガイモも茹で上がった! 潰すぜ!」


 ベーコンを炒め終えると同時にジャガイモとニンジンが茹で上がる。鍋の中をザルに移し、水気を切ると、ベーコンと野菜達をボウルの中にいれた。


「ポテサラは潰し方によって好みが分かれるけどもどちらかというと滑らか派なんだよね〜」


 マッシャーを使い、ジャガイモをグニグニと潰す。潰している合間にマヨネーズを加えると、さらにそこへ粒マスタードを加えた。

 適当な分量をジャガイモに加えると一つ味見をする。


「良い刺激だ、だけどもひと工夫っと」


 マスタードとマヨネーズの割合に舌鼓を打つが、ここで隠し味としてケチャップを数滴垂らし、混ぜ合わせる。


「おそらく合うはずだろう、楽しみは後にして、ここまできたら揚げますか」


 完成したポテトサラダを冷蔵庫にしまうと、味を染み込ませておいた鶏肉と取り出す。揚げ油の入った鍋に火をつけると、油を温めると同時に揚げ衣を鶏肉につけた。


「さい箸をいれたらフツフツと泡を立てる……いざ!!」


 衣をつけた鶏肉を油に入れると途端に激しい音をたて、油が跳ねる。腕で顔をガードしながら次々に鶏肉を油に放り込んだ。


「揚がっているかなぁ〜アァア!!!」


 肉をさい箸で転がすと油が手に跳ねる。しかし挫けずに全ての肉を揚げ終えた。


「少し休ませて余熱で火を通そう……」


 満身創痍で唐揚げを皿に乗せると冷蔵庫からポテトサラダを取り出す。そして取り皿などを用意した。


「準備完了……やっとできた」


 テーブルの上に並ぶのは二種類の唐揚げとポテトサラダ、そして事前に買っておいたパックの刺身の盛り合わせ、夜を楽しむには十分なメニューだ。


「それでは……いただきます!!」


 一礼と同時に缶ビールを開ける。そして一番に自分は黄金の命の水を喉に流し込んだ。


「っっっんまぃ!」


 缶ビールを置くと唐揚げに箸を伸ばす。まず先に醤油ベースの唐揚げを取り、齧り付く。ザクッとした食感の後、口の中で爆発する醤油とニンニクの風味、そして噛むごとに鶏肉の旨味が広がった。


「大成功! 火も通っていて尚且つ柔らかい! しかし問題はこっちだな」


 続けて取ったのは豆板醤とコチュジャンそして味覇で味付けした唐揚げだった。


「味よ染み込んでおれっ!」


 願いを込めて唐揚げを口に放り込む。すると口の中に広がったのは絶妙な辛みと旨味だった。


「サクサクとした衣の中から出てくる豆板醤の辛みとコチュジャンの旨み! そしてそれをまとめている味覇の出汁! こいつはビールに合うぞぉ!!」


 唐揚げを飲み込むと続け様に缶ビールを手に取り、ビールを流し込む。気づけば唐揚げ二つで缶ビール一本を空けてしまっていた。


「二本目二本目〜♪」


 ご機嫌な様子で二本目のビールを開けるとある事を閃いた。


「ふむ、この豆板醤唐揚げの名前……『カラアゲジャン』と名付けよう!」


 残り物の豆板醤とコチュジャンを加えた唐揚げに『カラアゲジャン』と名づけると、ポテトサラダに手をつけた。


「味見をしてあれだけ美味かったんだ、一気に口の中に入れれば!」


 先程は味見ということで少量しか口にしなかったが、今回は遠慮なしで箸ですくい、口に運んだ。


「バランスが完璧だ!!」


 ジャガイモの中でマヨネーズとマスタードとケチャップが仲良く手を取り、絶妙なバランスを完成させている。そこに香ばしく炒めたベーコンと大量にかけた粗挽きこしょうの刺激も相まって体が激しくビールを求めた。


「程よい刺激でビールが進む!! 罪深いものを作ってしまったなぁ!!」


 完全に酒のエンジンにギアがかかるとあっという間に二本目のビールも完飲した。


「このポテサラは普通じゃない……命名! 『ジェネラルポテトサラダ』と名付けよう!!」


 正直にいうと『ジェネラル』に意味はない、しかしとてもビールに合うことから『将軍』を意味する『ジェネラル』は間違っていないだろう(?)


「次はハイボールいっちゃお〜っと♪ まだまだ夜は長いし、のんびり飲みましょ」


 酒を飲んでいる時、普段の性格から一変して明るくなっていくのがわかる。

 酔いと料理のうまさを楽しみながら、金曜日の夜は過ぎて行った。

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