初デートに漫才劇場
信仙夜祭
初デートに漫才劇場
今俺は、初デートに臨んでいる。
待ち合わせ時間まで後五分……。
結構緊張している。
出来立ての彼女から、『デートしたい』と言われて、友人に相談した結果、『自分の趣味で行け』とアドバイスを貰った。
関西人である俺は、月一で漫才劇場に通っている。ただし、芸人になりたいとは思っていない。
他人を楽しませたい……、笑わせたい……、それだけだ。
そして、俺の彼女は関東からの転校生だ。
関西の文化をレクチャーするためにも、見て貰いたいと思う。
俺は、自信満々で劇場の前で待っていた。
「待ち合わせ時間の一時間前は早すぎたかな?」
逸る気持ちを抑える。
自分の趣味というか、得意分野を彼女に教えられるんだ。これ以上の楽しみもない。
そして、彼女は自他共に認める美少女だった。
俺は、とにかくボケて彼女を落とした。まあ、『お試し期間』とか言う制約もあるが……。手を握るまでしか許して貰えない。
それでも、俺は幸せを感じている。そしてソロの友人はひがんでいる。
優越感を与えてくれる、親友だ。生涯の友になりえるだろう。
そんなことを考えていると、袖を引っ張られた。
「……待った?」
「全然、今来てんところやで。……今日はオシャレしとんな、綺麗やで」
「もう~、やだ~」
待ちきれなくて、一時間前に来たことは言えない。警備員は、呆れた視線を俺に向けて来たが、無視だ。
テンプレの会話をして、挨拶を済ます。
顔を赤くした彼女は、何時もよりも可愛く見える。
「それじゃあ、劇場に行こか」
「うん。期待してるね」
こうして、劇場へ入場した。
◇
重い沈黙……。
「おもろなかった?」
「ごめん……、全然分からなかった。……帰るね」
そう言って、彼女は一人で帰ってしまった。
見限られた感じだ……。
理由は単純だ。
俺が一人で楽しんでいたのだけど、彼女は理解出来なかったからだ。
しかし、ボケと突っ込みの解説も出来ない。
せめて、事前に知識だけでも与えておくべきだった。
彼女は、M-1グランプリやキングオブコントも見たことがなかったらしい。
「生きて来た世界が違うんだな……」
全てが終わったような気がした。
俺は放心状態で帰路につき、いつの間にか自分のベットで泣いていた。
◇
次の日の朝、何時もの待ち合わせの場所に向かった。一緒に登下校をしていたのだが、今日はいないと思う。
あの、曲がり角の先に、
期待せずに進んだ。
「遅いよ! 遅刻するって!」
「え?」
彼女がいた……。袖を引っ張って急ぐように促して来る。
早歩きで通学路を進んで行く。
「昨日は、すまん……」
「……もう少し『お笑い芸能人』について教えてよ。まだ引っ越して来て間もないのを考えて欲しかったな」
そう言って、彼女は『お笑い芸人の本』を俺に渡した。
終わったと思ったけど、まだチャンスはありそうだ。『お試し期間』は、まだ有効みたいだ。
「まず、皆同じタイミングで笑ってたけど、そこから解説してね」
顔を赤くして、目線を合わせようとしない彼女を、俺は本当に好きになっていた。
顔やスタイルだけじゃなく、性格にも惚れ込んでしまった。
それからというもの、手を繋ぐだけでドキドキしてしまった。
彼女から『顔が赤いよ?』と言われて、慌てて顔を背けてしまう。
もう彼女といると、俺には余裕などなかった。
これが、恋という感覚なのだろうか……。
『別れたくないな。頑張らへんと……』
そして、三ヵ月後、学園祭で漫才を披露する俺達がいた。
俺も彼女も頑張ったのだ。
観客は、笑ってくれている。
彼女の突っ込みは、タイミングも関西弁も完璧だった。
初デートに漫才劇場 信仙夜祭 @tomi1070
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