穴を埋める

橘暮四

山頭火耕畝上座を追うて

二月二十五日 新山口

・小郡 其中庵

旅に歩く足袋に穴が開く

梅馨る山は霞んで居る


・防府 山頭火の小径

路地に入って何を迷うか

夕暮は紅く足取りは重く

湯浮かぶ幽霊

旅して忘れて歩いて脱して

薄空とはこんな空だ陽が低く差して



二月二十六日 愛媛

・港へ向かう列車で

列車が往って夜は明けない

列車が往って私はどこにも行けずに

異国情緒に山の赤さよ

白みだした山の端


・松山 一草庵

枯葉転がる春風が吹いていた


・松山 道後温泉

湯上がりの私に椿の香り


・下灘駅

海に夕、溶けてさよならの色

伸びた陽が海に沈んで春の靄

霽れた海に夕色照らして牡丹花

誰も夕陽を観ていない写真を撮る

誰も帰る家が在る無人の駅

花の名も解らず夜に向かう駅

汽車が征ったら夜になった

夕去て駅だあれも居らぬ

空曝しの駅、電灯だけ明かるい

飛び込みたい海が広がっている

夜になれない空が広がっている

凍えて隣に誰かも居らぬ

電灯の色は鈍く、影は曖く

落陽と人生



人間は何かに酔っていないと詩は書けない。俺にとってのそれは、安い感傷だった。いつからか開いた大きな穴は、まだ埋まらない。





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穴を埋める 橘暮四 @hosai

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