別れた元カレが急に部屋に来たんだが

戸森鈴子(とらんぽりんまる)

別れた元カレが急に部屋に来たんだが


「お笑いでも見ようぜ」


 そう言って元カレのアオキ君は冷蔵庫からビールを取り出して持ってきてテレビを付ける。


「ねぇ、アオキ君さぁ……ここ私の家なんだよ」


「ケチくせ~~あれ映らねー」


「そういうとこだって……そういうのイヤで別れたんだよ」


「アクア泥水のDVD、持ってたよな? それ見よそれ」


 アクア泥水は二人で好きだったお笑い芸人だけど……。


「まったく話聞いてないし……」


 私はビールをとりあえず飲む。まだ冷えてる、美味しい。


「カップ麺も食っていい?」


「あ~……もういいよ。好きな物食べて」


「やったぜ!! お、冷蔵庫にお前のカレーと米もあるじゃん!」


「はぁ……勝手に食べな~、そんなもん嬉しいの?」


「そりゃ嬉しいよ」


「元カノのカレーが?」


「おう、俺はお前のカレー好きだったし、今もお前の事も好きだし」


 思わず一気に飲み干した缶を、電子レンジの前にいる男にぶつけそうになった。


「はぁ~? 馬鹿でねぇの? なに今更あんた」


「地元訛り出てんぞ~~」


「まじなんなん!?」


 本当にイラつく。自分も訛りあるくせに。


「いいからいいから、お笑い見よーぜ」


 温まったカレーライスとお湯を入れたカップ麺をローテーブルに持ってきてアオキ君はお笑いのDVDの再生を押した。


「こっれさ~まじ笑えるよな」


「……笑えない」


「ウケるじゃん! このらーりらっらーりらっからの……あははははは!!」


「無神経すぎない? 元カノの家に急に来てさ」


「笑ったら免疫力アップするんだぜ?」


「そんなもん上げてどうすんのよ……」


 馬鹿みたい、笑えない。

 今の状況コメディ映画じゃないんだよ……アオキ君。


「馬鹿……アホ……バカ男」


「じゃあセックスする?」


「は……?」


 カレー食べながら言うなアホ。


「うちら付き合ってもいないのに、馬鹿じゃん?」


「なんか、やっぱりさ~~~一緒にお笑い見て一緒に笑えたのってハルだけだったなって……今頃思った」


 馬鹿じゃない? 馬鹿じゃない?

 バカバカバカバカバカ


「だからって……もう遅いよ……今更」


「うん、ホントにね」


 ブツッと電気が消えた。

 お笑いのDVDも消えた。

 真っ暗。


 そして、聞こえる。

 ゾンビの叫び声、生きたまま食われる人間の叫び声。

 世界は狂ってしまって、外はゾンビだらけ。

 生きてる人間も、もうわずか。

 此処にもいずれ、ゾンビが来て私達は殺される。


 真っ暗闇のなか、アキオ君に抱き締められた。


「セックスしよ死ぬ前に」


「あんた見てたら、アクア泥水のお笑い思い出して笑っちゃうよ」


「らーりらっらーりらっって、笑いながらヤルか」


「さいてー」


「いいじゃん」


 最後に覚えてたのは、なんだったろうかな。

 アキオ君は本当に馬鹿で笑って免疫力も上がったと思う。

 何度もヤリまくってきっと受精もしたんだろうけど

 そこで私の人生は終わっちゃった。

 ぬるいビール。

 らーりらっらーりらっらーりらっらーりらっ。

 りらり。




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別れた元カレが急に部屋に来たんだが 戸森鈴子(とらんぽりんまる) @ZANSETU

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