第3話 裏切り

 緒方は、何もかもが嫌になり、全てを放り投げて、どこかへ逃げていきたくなってしまった。だがすぐに思い直した。


<何としても奴らは、せん滅しなければならない。私には、その責任があるのだから>


 彼は必死になって、ミミズ人間の天敵を作りだそうとした。そしてE2という、獰猛なカマキリのような姿をしたものが出来上がった。


緒方は、ミミズ人間は彼らの他にもいるかもしれないと思った。そこでミミズ人間を、一か所に集めるために、以前にDWが好んだ匂いを使うことにした。VKにその匂いの元をばらまかせて、それでミミズ人間を有栖の作った村に誘導しようと考えたのだ。


その作戦は、大成功した。村に集まったミミズ人間は、驚くことに100体以上いた。 


E2は、ケースから放たれたとたん、一斉にそれらに襲い掛かると、体のあちこちの肉を食いちぎった。するとそれらは、そのたびに悲鳴を上げた。

 

その中には雅と樹頼もいたが、緒方はその光景から顔を背けることなしに、じっと見ていた。


そこへ有栖の村の女たちが駆け付けた。そしてすぐに止めさせるようにと、緒方に向かって叫んだ。


「だめだ! あんたらは騙されているんだ。こいつら本当は、人間なんかじゃない! ミミズの化け物だ!」


「そんなこと、どうでもいい! 私たちを救ってくれたのは、この人だけなの!」

 

いつの間にか緒方の息子も駆けつけていた。


「あんたこそ人間じゃない! 孫をこんな目に合わせるなんて・・・・・・」

「何を言っている。こいつらは、放っておけば必ず人間を支配するようになるのだぞ!」


「彼らが、そんなこと、するものか!」


純機は、憎しみのこもった目で彼をにらみつけた。それに対して緒方も必死で言い返した。


「目を覚ませ! お前は騙されているんだ!」


だが純機は彼の言葉を無視して、妻子に群がるE2を、手当たり次第に踏みつぶした。他の女たちも、有栖を助けようと必死になった。だがいくら殺しても、E2は増えるばかりだった。それを見て、緒方は嘲った。


「無駄だ! そいつは、切ったり潰したりすれば、そこから身体が再生することになっている。つまり増えるのだ」


それを聞いた彼らは、呆然とした。


だがそこへ一人の男が現れた。彼は、緒方の最も信頼する研究員だった。


その男は、上着のポケットから小瓶を出すと、E2めがけて投げつけた。すると黄色い靄のようなものが広がっていった。そしてそれと同時に、E2は、バタバタと死んでいったのだった。


「なんてことをするんだ!」


緒方は怒って、彼に飛び掛かっていった。すると男は、今度は赤いボールのようなものを投げた。それは緒方の顔に当たると砕け散った。


緒方はその粉を吸って激しくせき込んだ。しかししばらくすると、呆けた表情で立ち上がった。その様子を見た研究員は、純機たちに向かって言った。


「この人たちがひどい目に合わされることは、もう二度とありません」


その言葉を傍らで聞いていた緒方は、口から大量のミミズを吐き出すと、その場で息絶えた。








 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

変身 窓百 紅麦 @d001123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る