第2話 崩壊の恐怖

緒方はその夜、悪い予感がして、なかなか眠れなかった。すると案の定、会社から緊急の知らせが来た。


厳重にケースにしまってあったはずの、あの指が、消えたのだ。監視モニタには、大柄な男の姿が映っていた。


その男は、厳重な監視システムを狂わせて会社内部に潜入すると、易々と目的のものを持って逃走したのだった。


<ありえない! 不可能だ! あの厳重な監視網を突破するなんて、超能力でも持っていない限り無理だ>


更に詳しくその映像を見ると、その男の右手は親指が欠けているのが分かった。


<これは、DWが化けた人間だったんだ>


計り知れない能力を持ったミミズ男の誕生を知って、緒方は、全身がガタガタと震えだした。


<このことが世間に知られたら、私は破滅だ。何としても、DWを一匹残らずせん滅しなければならない>


彼はVKの数を、何十倍にも増やして捜させた。だが一向に、ミミズ人間は見つからなかった。

 

 そんな中、息子の純機(じゅんき)が、会わせたい人がいると言って、一人の女性を連れてきた。その彼女、花村(はなむら)雅(みやび)は、その時すでに妊娠していた。

「おお、それはめでたいことだ!」


緒方は、それを聞いて大喜びした。


<生まれてくる孫のためにも、絶対に会社は潰せない!>


 ミミズ人間の情報はVKからではなく、偶然開いたニュースサイトからもたらされた。あの監視カメラに映っていたミミズ男が、注目人物として紹介されていたのだった。


そこでそれは、名前を有栖京一と名乗っていた。


有栖は天才的能力で、短期間に株で大儲けした。そしてそれを使って、山間部の誰もいなくなった村の土地を買い、そこにたくさんの女たちを集めて生活させていたのだった。彼女たちはそれぞれ、貧困や夫にDVを受けていたなどの、悲惨な事情を抱えた者たちばかりだった。


彼は、もっとたくさん施設を作り、世界中の困っている女性を集めるのだと、記事の中で語っていた。


緒方はそれを見て、きっと何か恐ろしい企みがあるに違いないと思った。


<今まで、食われた続けた仲間の復讐でもしようというのだろうか?>


 それを見極めようと、緒方はしばらくの間、VKを使ってそこを監視することにした。

 

有栖は、やがて女たちに神のようにあがめられるようになっていった。


<まさか、この女たちを洗脳して、暴動でも起こす気か? 人間社会を乗っ取る気かもしれない。そんなこと、させてなるものか!>


緒方は有栖を退治するために、強力な天敵の開発を急いだ。


 その間に、息子と結婚した雅が子供を産んだ。その男の子は、樹頼(じゅらい)と名付けられた。孫の存在は、仕事に疲れ果てた緒方にとって、何よりの安らぎとなった。


 だがある朝、ジョギングをしている時のことだった。彼の前を走る、見知らぬ二人の男が雅の実家である花村家の話をしているのを、偶然聞いてしまった。


「あそこの娘は、実は病気でもうとっくに死んでいるらしい」


「噓だ! だったら、今のは、誰?」


彼らの話によると、雅の両親は、一人娘が病で死んで悲嘆に暮れていた。そんな時、自分の娘そっくりの女が、家の前で行き倒れているのを、見つけたというのだ。


「奥さんは、娘が生き返ったとすっかり信じ込んでいるから、その話をするのはタブーになっているんだ」


それを聞いた緒方は、頭を抱えて、その場にうずくまってしまった。


<そんな偶然あるものか。きっとDWが花村家に入り込むために、娘に化けたのだ。だとすると、ミミズ人間は他にも大勢いるのか? いや、そんなことより孫の樹頼は・・・・・・>


彼は気が狂いそうになってしまった。


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