お前のような鈍い後輩は好きだよ
新巻へもん
批判の自由
「先輩。ちょっといいすか?」
珍しく集中しているタイミングを見計らって声をかけてくるこいつの間の悪さが恨めしい。俺は心の中でため息をつきながら、背伸びをして席を立った。
まあ、それでも大事な大事な後輩ではある。
廊下に出て休憩室の自動販売機で缶コーヒーを買った。
後輩はのこのこ付いてきている。
スマホを覗くが転職エージェントからの通知が2件。お、いいじゃんか。
俺がくたびれたソファに座ると後輩は丸椅子を持って来て向かいに座った。
どうしても俺と話がしたいらしいな。
「あの、俺、気が付いたんですけど、うちの会社ってブラックじゃないっすか?」
ああ、その通りだ。よく気が付いたな。さすが優秀なお前だけのことはある。
他の新入社員は入社して半年以内に気が付いてとっくに逃げたがな。
俺は物憂げに問いかける。
「なんでそう思う?」
「なんつうか、みんなトゲトゲしてるし、いっつも遅くまで働いてますよね。それにこの間、経済誌で読んだっすけど、ブラック企業はトップの批判ができないっつうじゃないすか」
俺は顔をこすって否定した。
「じゃあうちは問題ないな。お前、この業界トップの北極データシステムズの飯田社長は知ってるか?」
「なんかで見て知ってるっすね」
「北極データシステムズの社長室で飯田社長の批判をしても怒られないそうだ。立派なホワイト企業だな。で、うちの会社の社長室で飯田社長のことボロクソにけなしても問題ないだろ。一緒じゃねえか」
「なるほど。そうっすね。さすが先輩っす」
お前のような鈍い後輩は好きだよ 新巻へもん @shakesama
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