萩市立地球防衛軍★KACその④【お笑い/コメディ編】

暗黒星雲

正蔵と黒猫のお笑いトークショー

 ここは萩市内にある某ショッピングモールである。


 一階中央の広場には百名ほどの保育園児が集まっていた。揃いの体操服と赤い帽子が可愛らしい。


 その子供たちの前方にステージが設置してあり、そこで二人の青年がトークショーを行っていた。


「ねえ黒猫さん。俺、今日の朝、ものすごく寒かったんですよ」

「正蔵君。どうしたんだ?」

「布団がだからなんですよ」

「( ゚д゚)ポカーン」


 寒いダジャレである。しかし園児たちにはそれなりにウケていた。


「ふっとんだおふとん!」

「ギャハハハハ」

「さむい! さむい!」


 こんな具合である。


「ねえ黒猫さん。ここにあるニュージーランド産のブドウ。ひとつ?」

家としてそれは受け取れん」


 寒い二重のダジャレであるが、それでも園児にはウケていた。


「しょうもない!」

「お兄ちゃんたち、ダサすぎ!」

「でも、ブドウはたべたい!」


 こんな具合である。


 その、寒いダジャレを連発している二人を監視している人物がいた。ビシッと紺色のスーツを決めている長身の男性と、毛皮のコートを着込んでいる小柄な女性であった。


「おい、アルゴル。完全に、正気に戻っているじゃないか」

「そうですね。あの二人には性的悪想念を注入済み。なので下ネタを連発するはずなのですが一言も無い。健全な精神状態に戻っています」

「お前の精神支配プログラムが不完全って事だな」

「否定はしません」

「次回はどんな作戦にするんだ?」

「今、考えています。しかし、あの寒いダジャレのせいで、私の思考が氷り付いてしまいました」

「確かに。笑うに笑えんし、俺もズッコケてしまいそうだ」


 この二人は侵略宇宙人。先日、萩市立地球防衛軍の主要メンバーが集う奥萩温泉郷にテロ攻撃を仕掛けた張本人である。


「ねえ黒猫さん。この白い犬、おもしろいんですよ」

「どこが面白いんだ? 尻尾を振ってるだけじゃないか」

「だから、でしょ?」

「それか!」


 あからさまに大仰に、黒猫がステージ上でズッコケた。

 それを見ていた園児たちにはバカ受けしていたし、中には黒猫を真似てズッコケる園児もいた。そして、正蔵と黒猫を監視していた二人組もズッコケた。


「もうダメだ。何も考えることができない」

「痛い……転び方が不味かった。利き腕の方の手首を捻挫した」

「メドギド様? 大丈夫ですか?」

「医者にかかるほどではないと思うが……やる気が失せた。今日は帰る」

「そうしましょう。私の思考も極寒のダジャレに占領され、しばらく復帰できそうにありません」


 メドギドと呼ばれた背広の男は右手首をさすりながら、アルゴルと呼ばれた小柄な女性は両耳を塞ぎながら、ショッピングモールを後にした。


 その二人を監視していた二人組がいた。見た目が小学四年生のララと、金属製アンドロイドのソフィアである。


「あの、しょうもないダジャレの破壊力は凄まじいな」

「肯定します。侵略宇宙人のアルゴルとメドギドを退散させてしまいました。そして私のAIも機能停止寸前です」

「大丈夫か?」

「大丈夫だと思いたいです。しかし、これでは罰ゲームになっていませんね」

「あのダジャレが子供にはウケてるからな。我々の監視任務も終了だ。これ以上ここにいると、気が狂いそうになる」

「了解です」


 ララとソフィアもショッピングモールを後にした。

 

 黒猫と正蔵は、先日の盗撮未遂テロ事件に加担していた事を責められ、その罰ゲームとして本日のトークショーを無理やりやらされたのだ。そして偶然にも、その寒いダジャレの連発が侵略宇宙人の気勢を削いでしまった。


 この、しょうもないお笑いトークショーのおかげで地球は守られたのである。実にしょうもないのだが。

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