「タイトル、お笑い」 KAC20224【お笑い/コメディ】
霧野
落ちつかぬ日々
「そういう意味じゃねえよ」
そんなツッコミが脳裏に蘇る。
あれ、表情といいタイミングといい、最高だったな。
やっぱりあいつはすっげえ面白い。
可笑しい。おかしくてたまらない。
僕はお腹を抱えて笑っていた。
横隔膜が激しく痙攣し、破裂音みたいな笑いが絶え間なく押し寄せる。息をするのも辛いくらい。
ひとしきり笑って、僕は流れる涙を拭いながら深呼吸する。
こんなに笑ったのって、久しぶりだ。ああ、最高の気分。
思い出しては、まだくすくす笑ってしまう。誰にも見られていなくて良かった。変な人だと思われちゃう。
俺たちは笑われちゃダメなんだ。笑わせないと。そうだよな?
重たい鉄のドアを開け、いつもの屋上に出る。もうじき約束の時間。
天気は快晴。絶好の漫才日和だ。なあ、相方。
「……だからオチが弱いんだよ。何度も言わせんな」
「そんなこと、急に言われたってできないよ。お前がネタ作るって言うから組んだのに」
「二人とも作れた方がいいに決まってんだろ?」
何度も何度も書き直した。その度に貶され、罵倒された。
それでも頑張ったよな。二人で面白い漫才を作るために。
「いつか、てっぺんへ」
それがあいつの口癖。
僕たちは一歩ずつ階段を昇り、やっとてっぺんへ辿り着いた。
振り返ってあいつの肩に手を置いたときの、あの表情。絶対に忘れない。
「最高のオチ、付けてやるよ」
ぐっと腕に力を込めた瞬間の、あいつのツッコミ。マジでキレッキレ。
「そういう意味じゃねえよ…」
言い終わる前に、あいつはゆっくりと仰向けに落ちていった。狭い階段をゴロンゴロンと転がり落ちて、踊り場の隅で可笑しな格好で止まった。
「なんだよその格好。確かに踊り場とは言うけど、まさかの暗黒舞踏かよ」
あの一連の流れは、マジで傑作だったな。
あんなに笑えたんだ。もう思い残すことはないよ。
いつもの練習場所。ちょうど約束してた時間だ。
天気は快晴。絶好の漫才日和だ。そうだろ? 相方。
「さあ、世界を笑わせてやろうぜ」
売れない漫才師、仲間割れの末、無理心中。こんな笑える話があるか?
僕は柵を乗り越えて両腕を広げ、大空へと一歩を踏み出した。
〜 終 〜
「タイトル、お笑い」 KAC20224【お笑い/コメディ】 霧野 @kirino
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